2025/05/04
300 AAC Blackout 近・中距離をカバーするAR用カートリッジ
新しく発表されるカートリッジには、数年も経てば話題に上らなくなるものも珍しくないという状況の中、ニッチを満たす300 ACC Blackoutの人気が高まっている。
ここでは開発背景や特徴に触れながら、同カートリッジを使用する銃器2種をご紹介しよう。
Text & Photos by Terry Yano
Special thanks to: Jeff Quinn, Tylar Coe, & On Target
Gun Professionals 2014年12月号に掲載
ARの使用弾薬
現在AR(アーマライトライフル)と呼称されるライフル/カービンのルーツは、7.62mm NATO(.308 Winchester)のAR-10だ。これは後にオランダなどで製造され、紛争地で限定的に使用されたが、商業的には成功したとはいえなかった。
兵士の携行弾数を増加させるため、歩兵用ライフルの小口径化が提唱され、AR-10を小型化したAR-15が開発される。紆余曲折を経て米軍にM16として採用され、口径5.56mmの使用カートリッジはNATOの制式弾となった。
5.56mm NATOはパワー不足が問題とされることもあるが、米軍が近いうちに別口径に変更することはないだろう。10年ほど前、6.8mm SPCが次期歩兵用ライフル/カービン用弾薬の有力候補としてクローズアップされたが、立ち消えになったことは周知の事実だ。米軍では、限定的に.7.62mmのMk 14 EBRやM110も使用されている。補給を考慮すれば弾薬の統一は理にかなっているが、オールマイティなカートリッジなど存在しない。スナイパーはもちろん、分隊内の選抜射手にも一般兵士とは異なる銃器・弾薬を支給するという米軍のアプローチは、現状での最善を模索した結果ともいえよう。
民間市場のARも、やはり5.56mm NATO/.223レミントンが一番の人気だが、.17 HMRから.50 Beowulfまで様々な口径で製造されており、7.62mmに対応した大型ARも含めると選択肢は更に広がる。それらの中でも、ここ数年でかなりポピュラーになってきた口径が、今回紹介する300 ACC Blackout(スリーハンドレッド・エイエイスィー・ブラックアウト、以後は300BLKと略す)だ。名称に含まれている“AAC”は開発に寄与したAdvanced Armament Corp.( アドヴァンスト・アーマメント・コープ)の頭文字で、同社はもちろん、Daniel Defense(ダニエル・ディフェンス)やNoveske(ノベスキ)、Wilson Combat(ウィルソン・コンバット)やCMMGなどといったメーカーが300BLKのARを製造・販売している。

中央:223レミントン(左)と300BLK(右)を比較したもの。どちらもホーナディ社製のファクトリーロードで、.223は75グレインのBTHP(ボートテイル・ハローポイント)、300BLKは110グレインV-MAXだ。
右:マガジンは5.56×45mmと共用で、装弾数にも変更はない。これはマグプルのPマグに、300BLK(左)と.223レミントン(右)を1発ずつ装填したところ。カートリッジの長さや形状の違いがよくわかる。
300BLKの特徴
AK(カラシニコフ突撃銃)は、ARの永遠のライバルともいえる存在だ。一般論として、精度ではAR、作動の信頼性ではAKに軍配が上がると考えられている。また、近・中距離における貫通力や打撃力といった面でも、口径や弾頭重量の大きいAKが有利だ。
AKの使用カートリッジである7.62×39mmをARに組み合わせるというアイデアはかなり以前から存在し、今でもいくつかのメーカーによって製造されている。しかし、7.62×39mmのARには、作動面での信頼性に欠けるものが珍しくない。マガジンも独自デザインのものが必要となることから、同口径のARは一般的にはならなかった。しかし、.30口径の打撃力は捨てがたく、似たような特性をもつAR用カートリッジが求められていたのだ。
“Low Visibility Carbine”(ロービザビリティカービン:強いて訳せば「目立たない短小銃」、以後はLVCと略す)というコンセプトがある。.30口径で、HKのMP5SDよりも発射音が小さく、約3倍の有効射程をもつというものだ。ARをプラットフォームとし、装弾数を犠牲にすることなく既存のマガジンを使用できること、サウンドサプレッサーを効果的に用いることができることなどを念頭に、.30口径のLVC用カートリッジの開発が進められた。こうして誕生したのが300BLK(メートル法での表記は7.62x35mm)だ。ペアレントケースは5.56mm NATOで、ブレット径は0.308インチ、弾頭重量は125~220グレインとなっている。カートリッジのヘッド径が同じなので、スタンダードARのボルト関連パーツがそのまま使用できるのは大きなメリットだ。
需要が見込まれた300BLKは、2011年にSAAMI(Small Arms and Ammunition Manufacturing Institute, Inc.)に認可された。


フォアエンド先端上面には、ユニティタクティカル(Unity Tactical)のフュージョン(FUSION)というモジュラーマウントが装着されていた。ベースとなるハブに、ユーザーの好みに応じて装備を追加できるシステムで、タイラーはBUIS(バックアップ・アイアンサイト)と、エクステンションを介してシュアファイアのライトを装着している。

上はイナート(フェイク)サプレッサーが装着された状態で、下はジェフさんの所持するTSの“Karma”(カーマ)というサプレッサーを装着したところ。スコープはリューポルドのMark 4 MR/T 1-5x20mmで、.300BLKのサブソニックとスーパーソニックの両方の弾道に合わせた各距離でのドロップ量がレティクルに記されている。
TSAR-300
いまやARは、アメリカでもっともポピュラーなライフルとなった。完成銃が売れているのはいうまでもないが、分解や部品交換が容易であることから、ユーザーサイドでのDIYが盛んだ。カスタマイズはもちろん、別口径のアッパーを入手すれば、手軽にコンバートすることができる。
.22口径ライフル/ハンドガンの軽量バレルやアクセサリーの製造で知られるアイダホ州のTactical Solutions(タクティカル・ソリューションズ、以後はTSと略す)は、2014年度の新製品として300BLKのAR用アッパーを発表した。サプレッサーの装着を前提としたデザインで、11インチという短い銃身を備えているが、固定されたシュラウドも含めた寸法は16インチ以上となり、連邦法で定めるSBR(ショートバレルドライフル)には該当しない。イナート(フェイク)サプレッサーを外せば、別途の所持手続きを経て入手したサウンドサプレッサーを装着することができる。300BLKに興味をもつARユーザーにとっては、気になるアイテムに違いない。以前、ウェブマガジン“GunBlast.com”(ガンブラスト)のジェフ・クイン氏(Jeff Quinn)を訪問した際、TSから送られてきたTSAR-300のサンプルを手にする機会に恵まれた。付属していたイナートサプレッサーを取り外し、クイン氏がすでに所有していたTSのサプレッサーを装着してサブソニックアモを撃たせていただいたのだが、リコイルの少なさは特筆に価する。レイル付きフォアアームを備えた16インチ銃身付きのARからスタンダードの.223レミントンを撃つよりもはるかにマイルドで、発射音もイヤプロテクションなしでもまったく気にならなかった。
300BLKの今後
2011年、USPSAのマルチガン・ナショナルチャンピオンシップにおいて、300BLKのライフルを用いた米陸軍射手育成部隊(USAMU)のダニエル・ホーナー二等軍曹が優勝した。20インチ銃身のARはUSAMUのカスタムショップによって組み上げられたもので、スワロフスキの1~6倍のスコープが搭載されていたという。近接戦闘だけでなく、300m前後の標的にも十分に対応できるという性能の証明だ。新型カートリッジは毎年のように発表されるが、しばらくすると消えてしまうものも珍しくない。その中で、300BLKはカービン用カートリッジとして足場を固めつつある。近・中距離での弾道性質は.30-30と似ていることもあり、ARだけでなくボルトアクションや中折れシングルショットのライフルの口径に採用するメーカーも出てきた。弾薬は、レミントンやフィオッキ、ホーナディやバーンズから発売されている。

余談だが、TSAR-300はフルオートのロウワーにも対応しているとのことだ。
300BLKの人気が高まっているとはいえ、5.56×45mmにとって代わることはないだろう。しかし、今後米軍が限定的に採用するという可能性も皆無ではない。
今回紹介した300BLKのSBRは、ATFに提出した書類への回答待ちの状態で、残念ながら実射することができなかった。手続きが完了すれば、再びオーナーであるタイラーにお願いし、実射テストをさせていただけたらと考えている。
ではまた。God Bless you!!
Text & Photos by Terry Yano
Special thanks to: Jeff Quinn, Tylar Coe, & On Target
Gun Professionals 2014年12月号に掲載
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