2025年5月号

2025/03/27

無可動実銃に見る20世紀の小火器195 BREDA M1930 Light Machinegun

▲ブレダM1930のレシーバー。上面がインテグラル オイリングシステム。中央の丸いフタを外し、そこからオイルを入れる。写真右端の“A”“C”と書かれている部分は、このオイリングシステムを上方に回転させる際のロックレバー.。“A”の位置にレバーを180°回転させるとオイリングシステムを上方に回転させて開くことができる。

 

▲インテグラル オイリングシステムを開いた状態。射撃等でボルトが前後動するたびに、ボルトの一部がAのパーツを押し、オイルタンク内のオイルはBから少量ずつマガジン最上段の弾薬に塗布される。

 

▲無可動実銃なので、ボルトは後方に下がった状態で固定されているので見えないが、このCの部分をボルトが前後動する。センターナットはバレルとボルトをつないでおり、射撃するとバレルが数mmショートリコイルしてセンターナットを後方に押す。その動きをH型ブロックがセンターナットの回転運動に転換、これによってセンターナットとボルトの連結が解けて、ボルトが後方に動く。これがブレダM1930のディレイドブローバックだ。

 

 この銃の作動はセンターナットと呼ぶべきパーツが重要な働きをする。このセンターナットは前部にバレル、後部にボルトヘッドが接続されており、M1930を発射するとバレルはわずか数mm後退、この動きはそのままセンターナットにも伝わり、センターナットも後退する。センターナットの上部に配置されたH型ブロックにより、センターナットがぐるりと回転する。これにより後方に接続されていたボルトヘッドとのロックが解除され、ボルトが解放される。
 問題は、この銃を発射した際に、まだチェンバー内がかなり高圧であるときにボルトが動き出そうとすることだろう。それはドイツが第二次大戦中に開発したハーフローラーロッキングと同じ問題だ。
 薬莢の前端部分がチェンバーに張り付いた状態なのに、ボルトは開放に向かって動きだし、薬莢を引き出そうとするため、薬莢は途中で千切れてしまう。こうなると分解して特殊な工具を持ちなければ、その銃は使用不可能となる。チェンバーに張り付いた薬莢は一瞬後には収縮を始めるので、ボルトの開放はそのあとにすることが理想だ。
 ドイツはその対策としてチェンバーにフルートを設けた。いわゆるH&Kの銃によく見られるあのフルートだ。これによってチェンバーへの薬莢の張り付きを防いでいる。一方、イタリアは、薬莢に微量のオイルを塗った。このオイルがチェンバーへの張り付きを防止する。そのためのオイラーがこの銃のカバーに装備されており、チャンバーに送り込まれる弾薬に少量のオイルを塗っていくのだ。
 思うにセンターナットの動くタイミングを調整して、ボルトの開放を少し遅らせるだけで、問題は解決するように思うのだが、ブレダはそうしなかった。オイルを弾薬に塗るだけで、解決したからなのだろうか。しかし、メカニカルな部分の改良をしなかったことが、その後にこの銃の評価を大きく棄損してしまうことになった。
 この薬莢張り付き問題は、スイングウェッジによるディレイドブローバックで作動するフィアット レベリM1914でも起こり得た。そのため、1930年代にM1914が改造され、オイラーが追加されている。
 M1914が特異なハーモニカマガジンを使用したのに対し、ブレダM1930も別の特徴的なマガジンを装備した。ブレダM1930のマガジンは弾薬の装填に際し、マガジンを外さない。マガジンは射手から見て右側面に突き出した形で装着されている。その状態で、マガジン後方のロック解除ボタンを押すと、マガジン自体が、マガジン前面のヒンジで支えられ、約90°回転する。すなわちマガジン開口部が射手の方に向くわけだ。  

 この状態で、マガジンはフックで固定される。射手は20発入りのクリップを使い、一気に20発をマガジンに押し込む。そして今度はマガジンの上部に位置する大型レバーを操作しフックを解除し、マガジンを90°回転させて銃に装着する。

 

▲ブレダM1930のマガジンは、本体レシーバーの右側に装着されている。弾薬の装填はこのマガジンを装着したままおこなう。

 

▲弾薬の装填には、まずマガジンロックを解除する。マガジンは、写真のように約90°回転して、マガジンの上端部を射手側に向ける。マガジン側面にある長いレバーは、マガジンを開いた状態を保持するためのロックを解除するレバーだ。
 

 

▲これがブレダM1930専用のチャージャークリップだ。真鍮製、または鉄製で20発が収まり、使いやすいように大きなハンドルが付いている。このハンドル部を持ってクリップをマガジンの奥まで挿入。そしてクリップを手前に引くと20発がマガジンに装填される。そしてマガジンを約90°手前に回転させれば、マガジンへの給弾が完了だ。


 マガジン自体は大型だが、複列弾倉で特別な構造ではない。着脱式にしなかった理由は、マガジンを消耗品ではなく、銃本体の一部分として精度よく加工し、それによる作動不良の減少を目指すためと、予備マガジンを多数用意するより、簡易的なクリップのみとすることで補給が容易になるといったメリットがあるためだったといわれている。
 しかし、その結果、弾薬の再装填に時間が掛かるようになってしまった。またマガジンを固定式にしたものの、マガジンに起因するトラブルは無くなったわけではない。マガジン自体も外そうと思えば、容易に外すことができる。
 排莢時の不具合発生を減らすためとはいえ、弾薬に少量のオイルを塗るという手法は、過酷な環境で使用する可能性を持つ軍用マシンガンには適していない。
 戦場の泥や砂が弾薬といっしょにチャンバーに送り込まれ、またボルト周辺にこびり付き、ロテイティングボルトヘッドの回転を阻害する可能性がある。
 実際にイタリア軍が第二次大戦で戦った主戦場は、エジプトからモロッコまでの北アフリカ北岸の砂漠地帯だ。弾薬にオイルを塗布することを必要とするマシンガンを用いれば、まともに作動しないことは容易に想像できる。実際、ブレダM1930やフィアット.レベリM1914は頻繁に作動不良を起こしたと伝えられている。

 

▲リアサイトはラダータイプで、300mまでは倒した状態で使用し、400m以降は起こして使用する。目盛りは100m刻みで1,500mまで設定されている。

 

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