2025/02/28
アームズマガジン独占取材!「留之助商店 留之助ブラスターAIR ガスガンモデル」
“留之助ブラスター”の最終形態がペガサス式ガスガンで登場
映画『ブレードランナー』には一種のカルトとも言えるような熱狂的なファンが世界中に存在している。私もその信者の一人でありこの作品がSF映画史上最も成功を収め、伝説的な作品になった要因は「革新的なビジュアル」「深いテーマ」「影響力のあるストーリー展開」にあると考えている。映画のビジュアルは美術監督であるシド・ミードが手掛けており、映画の舞台となる未来都市のデザインは、ネオンライトが輝く1970年代後半の新宿・歌舞伎町をイメージしてデザインされたものである。環境汚染によって常に酸性雨が降り注ぐ風景をリアルに描き出し、その後の多くのSF作品に影響を与えている。このビジュアルスタイルは、映画の公開から数十年経った今でも色褪せることなく、ファンの心を魅了し続けている。
映画が探求しているテーマの深さ故に、観る者それぞれに解釈が委ねられている点が挙げられ、アイデンティティや存在意義、倫理感といった哲学的な問いを投げかけてくる脚本になっている。主人公デッカードがレプリカントを追う中で、自身の存在や人間性についての疑問を抱く様子は、観客に深い思索を促し、単なるエンターテイメントの枠を超えた深い感動を与え、多くの人々にとって忘れられない作品となっている。
後世の映画に与えた影響力も無視することができない。『ブレードランナー』はSFブームの一翼を担い、サイバーパンクというジャンルを確立した。その後の映画や文学、ゲームなどに多大な影響を与えていることは間違いない。特に、未来社会の描写や技術と人間の関係性についての考察は、多くのクリエイターにインスピレーションを与え続けている。これらの要素が組み合わさり、哲学的な解釈の難しい問いかけに対して自分で答えが出せなかったとしても、視覚的な美しさだけでも作品を充分楽しむことができるため、時代を超えて愛される名作なのである。
主人公のデッカードが作中で使用する銃(以下デッカードブラスター)が映画マニアの中で根強い人気があることも、この映画が伝説として語り継がれている要因の一つでもある。シド・ミードが試作したデッカードブラスターは”ヘアドライヤー”という蔑称がつけられるほどのクオリティであったため、それを見かねた当時の撮影スタッフがロサンゼルス中の小道具屋や質屋を巡って見つけてきた銃の模型がブラスターの原型となった。これを基にLEDなどの装飾を加えたものがデッカードブラスターとして作中に登場することになった。








作品としての重要なアイコンの役割を果たしているデッカードブラスターは、下呂温泉に構える留之助商店から“留之助ブラスター”として幾度も改修を重ねられて製品化されている。その高い再現性の評判は海を渡り『ブレードランナー2049』では正式に映画の小道具として採用された経歴がある。また、デッカードブラスターは名もなきアーティストがデザインしたものであったため、意匠登録がされていなかった幸運も重なったことで、留之助商店が正式に製品化することができたという裏エピソードがある。

今回、留之助ブラスターの製作者である留之助商店の中子真治氏にインタビューを行なうことができた。インタビューを通じて率直に抱いた感想は「試練」であった。中子氏が生み出してきた留之助ブラスターシリーズは常にその時点での最高傑作であったと語っていたが、常に予算との戦いでもあった。留之助ブラスターは亜鉛ダイキャスト製アッパーレシーバーに美しいブルーイングが施されているが、製造時に生じる巣の中の油分がブルーイング液に影響し、製品ごとにムラができてしまう。樹脂パーツは成型時に出る押し出しピンの痕処理が予算の都合で完璧に対応できなかった。非の打ち所がない良いものを作ろうとすれば、ユーザーが買える金額に収まらない。悔いのない最高のブラスターを作るという自分で広げた風呂敷をどのように元に戻すか、挙げた拳を下ろそうにも下ろせない苦悩が続いていたと語っていた。
本来は留之助ブラスターの最新モデルであるOGを区切りとして、留之助ブラスターを制作するプロジェクトは役目を終えるはずであった。しかし、中子氏が廃棄する金型を目の前にした際に、我が子に再会したような気持ちになったと語っていた。そこで、最後にもう一度だけこの子に新しい道を歩ませてあげたいという気持ちが芽生え、留之助ブラスターAIRプロジェクトが新たに発足した。



留之助ブラスターAIRは単に従来品をエアガン化したものではなく、パーツの一点ごとに見直しが行なわれており、エアガンの枠を超えてもはや工芸品としての美しさや気品、佇まいを感じさせる出来映えとなっている。留之助ブラスターAIRはデッカードがロイ・バッティに追い詰められ、指を折られるシーンに映ったブラスターの色を再現したものであり、そのイメージを妥協なく再現する挑戦が始まった。従来品との違いは、徹底した仕上げ加工の工程にある。アルミダイキャスト製のグリップエンドの角を納得のいく角度になるよう、職人が手作業で磨き上げ、亜鉛ダイキャスト製パーツは巣に染み込んだ油分を徹底的に脱脂することで染めムラが起こらないよう時間をかけて製造されている。目を引くオレンジのレジン製グリップは2人の熟練の職人が専従して加工に当たっている。その曇り一つない鮮やかな発色は「クリスタル研磨」という造語を中子氏が生み出すほどのこだわりが詰まったパーツになっている。





製造はトイガンメーカーのA!CTIONの協力を得ており、内部機構はシリンダー内にガスタンクを設けたペガサスシステムを採用している。作中では確認できないがトリガーアクションに連動してハンマーがライブで可動する。SF銃にありがちな実際にはあり得ない構造ではなく、リアルな要素もバランスよく取り入れられているため、説得力のある動作を楽しむことができる。留之助ブラスターAIRを片手にもう一度ブレードランナーを見返すことで、また違った角度から作品を楽しむことができるに違いない。
最後に、中子氏にこんな質問をしてみた。あなたは砂漠にいる。砂の上を歩いていて、ふと足元を見下ろすとリクガメがいる。そいつはあなたに這い寄ってきた。あなたはしゃがんでそのカメをひっくり返す。カメはひっくり返ったまま、腹を直射日光に焼かれている。どうされますか?「僕は放ったらかしにする」と笑いながら答えていた。
留之助商店
留之助ブラスターAIR ガスガンモデル
DATA
- 全長:255mm
- 全高:175mm
- 重量:1,285g
- 装弾数:5発
- 価格:¥187,000
- お問い合わせ先:留之助商店
ハリウッド・コレクターズ・ギャラリーにて予約受付中
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TEXT:風見れん/アームズマガジンウェブ編集部
この記事は月刊アームズマガジン2025年4月号に掲載されたものです。
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