実銃

2023/09/23

【実銃】TTIにより生まれ変わった新生「Combat Master」を解説【Chapter 2】

 

Taran Tactical

Innovations
 JW3 Combat Master 

 

 

 映画『ジョン・ウィック:パラベラム』に登場して大人気となった2011 コンバットマスターだが、製造メーカーのSTIがSTACCATOと名を変えて製品ラインナップを大きく変えたため、供給がいったん途絶えてしまった。

 この状況にTTIは自社オリジナルの2011を製品化、ハイグレードな改良を加えてコンバットマスターを復活させている。今回は新生コンバットマスターの魅力と改良点を、詳しくご紹介したい。

 

Chapter1の記事はこちら

 

※この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです

 

 


 

 TTIバージョン 

 


 2019年に入り、いよいよ第3作目の予告編がリリースされ世間にジョン・ウィックの新型ハンドガンの姿が知れ渡った。その直後開催されたSHOT SHOW 2019のSTIブースでは2作目に続き銃器を担当したXtreme Props & Weapons Rentals社の協力のもと、映画で実際に使用したコンバットマスターが展示され、会場や取材メディアで大いに賑わった。

 

通常のブルバレル。映画で使用されたのがこのデザインだ。バレルが太く1911の特徴的なブッシングが省略され、スライドと直にフィットする。このためリコイルスプリングブラグがリバースタイプに変更されている

 

質量を引き上げて、ブルバレルの特性をさらに押し進めたのがこのリブドバレルだ。リブが海の上の島のように見える事から「アイランドバレル」とも呼称される。またバレル側にフロントサイトが固定され、大きく前後運動しないためサイトをトラックしやすくなり、これを採用したモデルはサイトトラッカーと呼ばれる

 

 STIは映画に登場する2011コンバットマスターを、TTIを通じて市販化する事もアナウンスし、ジョン・ウィックのファンはさらに白熱した。タランが希望した通り、ハンドフィッティングによりすり合わせでタイトかつ滑らかに作動するハイレベルなファクトリーカスタムガンとして完成し、TTIベースパッド付き22連マガジンが4本付属でメーカー希望小売価格は$3,899だった。

 

そしてさらにそのデザインを発展させたのがサイトブロックだ。スライドはフルサイズをより短く、スチール製の先端部がバレル外周のスレッド(ネジ)で固定される。バレルに固定されたスライド前方部は穴が開いてないコンペンセイターのようなもので、リブ付きよりもさらに重く、それとバランスを取るために短縮・軽量化されたスライドのサイクルは軽やかになる

 

3種類のバレルとスライドを上から比較。サイトトラッカーではバレルロッキングラグが丸見えになるのが特徴だ

 

 その内容からすれば、これは高いとは思わない。公開される映画の宣伝効果で大ヒット商品となることが約束されたようなものだ。しかし、大きな反響とは裏腹にSTIはこれを限定生産品としてWebサイトに記載し続けた。

 タランにも限定品のつもりなのかと聞いてみたところ、TTIとしては当面その考えはなく、可能な限り売り続けるつもりで、なぜ彼らがあのように表記しているのかは分からない、という事だった。

 

 

サイトブロックの長所はさらにもう1つある。従来型スライドと同サイズに見えるが、バレル先端までブロックを延長しているので僅かにフロントサイトがより前方に位置し、サイトレディアス(照準線長)がさらに長く(従来型179mm、新型182mm)、正確に狙う事ができる。同時にサイトトラッカーと同様にフロントサイトは殆ど後退しないのでその特徴も引き継ぐ

 

エジェクションポートの下にコンバットマスターの刻印があり、ロゴの書体も雰囲気もそのままだ。新型(写真右)では2011の刻印部分がTTIのトレードマークに変更され、フレームが分厚くなりスライドキャッチの軸先端もフラットになっている

 

 そしてSTIは2019年末で2011コンバットマスターをディスコン(製造終了)扱いとした。

 その背景には、ここ数年STIは競技分野よりも法執行機関への売り込みに力を入れ、それが成功して大都市のポリスデパートメントを含め、STIをデューティガンとして採用するケースが増え、生産が追いつかない状況となっていたという事がある。

 

スライド/フレームはDLC仕上げだ。STIではWilson Combat(ウィルソンコンバット)のアンビセイフティとDawson Precision(ドーソンプレシジョン)の大型マグリリースボタンを採用していた。新型はパーツ製造を委託している業者がセイフティとスライドキャッチも製造しているが、その操作性はほぼ同一だ。STIで製造されていた時と最も大きな変更点はトリガーがプラ製からアルミ製に切り替わった事、そしてSTI版にあったトリガーガードのダブルアンダーカットは新型では引き継がれず、フラットで底面がスティップル加工されている事だ

 

 STIは現行シリーズを大量生産するために新工場を建設し、増産体制を確立した後にならコンバットマスターを再生産するとタランに約束したようだ。しかし工場建設までの時間に加えて、かなりのバックオーダーを抱え込んだ状態のSTIが、その生産能力に余裕が出るまでにはかなりの時間を要するだろう。

 

トリガープルは793gから1.1kgの間で調整・出荷される。テスト機では撃ち込んで628gまで軽くなっていたが、トリガーの切れは素晴しい。キアヌの訓練の頃から撃ち込んでいる他の先行量産型では、平均582gまで軽くなっていた。新設計トリガーはカーブが小さくフラットに近くて引きやすい。リセット距離はスクリューをねじ込んで微調整できるが、テストモデルは約1mmに設定されていた

 

STI版を引き継いで採用されているボーマースタイルのアジャスタブルリアサイトだが、新型ではKensight(ケンサイト)が製造するTTIブランド品だ

 

 競技シューターのタランがデザインしたコンバットマスターは競技向けモデルであり、STIの経営方針は競技向けカスタムガン製作の優先順位が低く、生産再開はずっと後になることは容易に想像できた。ずっと待ち続けるわけにはいかない。

 

グリーン(レッドも選択可)のファイバーオプティックをサイト上面ギリギリに固定したTTIのグランドマスターフロントサイトを採用。ノッチ幅も理想的で狙いやすい


コンバットマスターが欲しいというリクエストを大量に受け取っていたが、ディスコンになったのをいい事にオークションサイトで140,000ドルとか異常なまでに価格を釣り上げている人達をみてうんざりした。それにファンを何年も待たせたくない。だからコンバットマスターをTTIで復活させようと思ったんだ

とタランは語る。

 

TTIは2011のために大型のアルティメットグランドマスターマグウェルと、一般的なサイズのミニマリストマグウエルの2種類を販売中。​​​​​​ステンレスをCNC加工したもので各種カラーがある。これはその中間的なサイズで現在は製造中止になった旧型だ。映画やSTI市販モデルではSTIのタクティカルマグウェルが装着されていた

 

ポリマー製のグリップ部分には様々なグリップ表面加工が可能だ。新型ではTTIがグロックなどポリマーフレームに得意とするグリップジョブ(スティップリング加工)が施される。同様にこれをやっている会社は多いが、個人的にはTTIの粗さはちょうどよく滑りにくく好みの表面加工だ

 

STACCATO(STIの現在の社名)の現行ラインナップでは見られなくなったが、STIのDVCシリーズで用いられたフルラップスティップリング加工。映画でもこのタイプだ


 STIと競技モデルは切っても切れない関係だったはずだが、2011モジュラーフレームの特許が切れて、今では誰でも製造できる状況だ。
 共同特許を持つインフィニティも同様だが、彼らはCNC加工を駆使した高品質の完成銃を主体として世界中に市場を広げており、フレーム単体の販売を含めカスタムベースという立ち位置のSTIとは異なっていた。
 STI社員から直接聞いたが、実際のところ、競技特化型モデルの売れ行きというのは周囲が想像するより相当低かったという。

 

オプションでシリコンカーバイド仕様も注文できる。スケボーテープのようにかなり滑りにくい

 

マグウェルの挿入口。アルティメットグランドマスターマグウェルではさらに大型化されて挿入しやすい

 

続きはこちら

 

Photo&Text:Gun Professionals  LA支局

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです

 


 

『ジョン・ウィック』シリーズ最新作を観る方にオススメ!!

月刊ガンプロフェッショナルズ 2023年10月号

 

 

 キアヌ・リーブス演じる伝説の殺し屋ジョン・ウィックの最終決戦が描かれる第4作目『ジョン・ウィック:コンセクエンス』が、いよいよ9月22日に日本でも公開される。この映画でジョンは様々な銃を使いながら戦いを進めていくが、今月号のガンプロフェッショナルズではメインとなる3機種について、デザインを手がけたタラン・バトラーのインタビューを交えながら詳しくご紹介している。登場銃について知ることができるので、上映前にぜひご一読いただきたい。

 

 

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