2022/03/30
アメリカ陸空軍新型ボディアーマー「Modular Scalable Vest」の実力とは
アメリカ陸空軍新型ボディアーマー
アメリカ陸空軍に支給された最新型のボディアーマー「Modular Scalable Vest」。大幅に軽量化され機能性が向上しているというこの最新装備を、元アメリカ陸軍大尉である飯柴智亮が現地で試着。本邦初公開となるレポートだ。
空挺師団に支給された新型ボディアーマー
2021年9月、米陸軍へ最新型のボディアーマーの支給が開始された。言うまでもなく、ボディアーマーは兵士を敵弾から守る重要なPPE(Personal Protection Equipment:個人防護装備)である。よって緊急即応部隊である第82空挺師団から優先的に配備が開始された。筆者は現在でも所属していた部隊と交流があり、早速後輩に支給された新型アーマーを試着する機会に恵まれたので、特徴と着用感についてお伝えする。
筆者の経験からボディアーマーを評する
筆者にとって、ボディアーマーとの付き合いは長く、アフガニスタンではインターセプター、帰国後には改良型IOTVアーマーを使用した。クレイプレシジョン(Crye Precision)でCAGEアーマーについて現場での経験に基づいた意見を提供したり、また要人警護任務に就いていた時も当然ジャケットの下にボディアーマーを着用していた。その経験上、ボディアーマーを手に取ってすぐに「使えるか使えないか」を瞬時に判断できるようになった。そこからまず言えることは、「万能なボディアーマーは存在しない」ということだ。
「万能なボディアーマーは存在しない」
当然ボディアーマーは毎任務、用途に合ったモデルを選択しなければならない。例えば同じガントラック(重火器を搭載したハンビー車輌)内でもガンナーとドライバーのアーマーは異なるのだ。
具体的には、ガンナーはポーチ類はほぼすべて外す。射座が狭いのと、車載火器を撃つのが任務なので予備マガジン類は一切必要ないからだ。また射座で機敏に動き回るよう引っ掛かりを少なくするためでもある。だが車外への露出度が多くなる肩/上腕部分や首部分を保護する細かなアタッチメントは必要不可欠となる。
防弾レベルも同様に臨機応変に対処しなければならない。S2(敵情報担当将校)によるブリーフィングに基づいて必要となれば、被弾率の高い部隊から優先してレベルの高いプレートを配布する。もちろんこれには予算と在庫の問題があるので、必ずしも思ったとおりにはならないが。
多彩なセットアップに対応できるModular Scalable Vest
ではこのModular Scalable Vest、どこがどのように改良されたのか。それは名前に現れている。
“Modular(基準寸法、組立ユニット)” “Scalable(拡大縮小可能)”――つまり、いくつかの付属品によって用途に合った組み合わせができるということだ。前述したように、ガンナーやドライバーなどの任務によって、付属品を足したり取り外したりしてベストのセットアップが可能となっているのである。
今回ベストの試着をさせてくれた筆者の後輩は空挺歩兵であり、所属は大隊本部中隊偵察小隊であることから付属品はほとんどなく、最軽量のセットアップとなっている。偵察小隊は基本的に接敵は行なわず、大隊の生きた目として情報をあげることが任務だからだ。
外見からは今までのプレートキャリアとあまり変化はないかもしれない。だが筆者には一目で米軍の実戦経験に基づくエンジニアリングが練り込まれているのが理解できた。とくにクイックリリース機能がシンプルで使いやすいデザインとなっている。筆者が使っていたIOTVのクイックリリース機能は複雑で、迅速に機能しなかったものだ。
次に目についたのは、ベストの角が取れてスムーズになっていた点だ。角が鋭いと皮膚が摩擦で擦り切れて炎症を起こしてしまう。これは毎日長時間着用するうえで非常に重要な問題だ。内側の材質も適度に滑り止めがかけられている材質が採用されており、激しく動いた時にベストが暴れないようになっている。初期のプレートキャリアは走ると左右に暴れて使いにくい製品が多々あったのだ。肩の重量がかかる箇所に緩衝材が縫い込まれている点にも感心させられた。ESAPIプレートを入れて予備マガジン等を装備したベストはかなり重い。ちょっとした緩衝材でもあるのとないのとでは疲労度が大きく変わってくる。
最後に着目したのが、「Jumpable」である点だ。空挺部隊においての装備は生死に関わるため、Jump Board(空挺部隊装備評議会)の厳しい認可を得て、「Jumpable(空挺降下可能)」の承認を得た装備のみ、降下時に着用可能となっている。後輩に実際にこのベストを着用して降下した感想を聞いてみたが、まったく問題ないと言う。
このボディアーマー、はたして「使えるか使えないか」?
結論から言うと、このベストは使える装備だ。後輩いわく、現場での評判も良好という。それはそうだろう。筆者が現役時代に特殊部隊レベルの部隊が使用していた装備品が、空挺部隊にも回ってきたという印象だ。
進化したという意味では、装備だけでなく訓練水準も同様だった。久しぶりにフォートブラッグ基地を訪れた筆者は後輩たちの体格にも驚かされたのだ。特に背中の筋肉の付き方が増している。これは正しい訓練方法で厳しいトレーニングを行なっている証拠である。装備も訓練水準も並行して進化している、という現状を改めて感じさせられたModular Scalable Vestの取材だった。
TEXT & PHOTO:飯柴智亮/アームズマガジンウェブ編集部
この記事は月刊アームズマガジン2022年5月号 P.216~219をもとに再編集したものです。