2025/11/25
コクサイ S&W M19/66 コンバットマグナム【ビンテージモデルガンコレクション28】

Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2014年7月号に掲載
コクサイはM29発売からわずか3ヵ月後、コンバットマグナムM19/M66を発売している。金属の雰囲気を再現しようと改良型メタルフィニッシュを採用、同時にリアルなステンレスフィニッシュも展開するなど、大きく話題を集め、こちらも大ヒットとなった。


諸元
メーカー:コクサイ(国際産業)
主 材 質:耐衝撃性ABS樹脂
発火機構:シリンダー内前撃針
撃発機構:シングル/ダブルアクション ハンマー
カートリッジ:スプリング入りインナーロッド方式
使用火薬:5mmキャップ
全長:190mm(2.5インチ)、240mm(4インチ)、290mm(6インチ)
重量:480g(2.5インチ)、500g(4インチ)、520g(6インチ)
口径:.357
装弾数:6発
発売年:1982(昭和57)年
発売当時価格:2.5インチ¥8,400、4インチ¥8,600、6インチ¥8,800(各カートリッジ6発付き)
オプション:.357マグナムカートリッジ1箱6発入り¥1,200、スピードローダーM¥1,000、Kフレーム用サービスタイプラウンドグリップ(ウォールナットウレタン仕上げ)¥3,600、Kフレーム用オーバーサイズスクェアグリップ(ウォールナットウレタン仕上げ)¥4,500
※ smG規格(1977年)以前の模擬銃器(金属製モデルガン)は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※ 1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー, イエロー等を吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるものです。また価格は発売当時のものです。
国際産業が1979年にナガタ・イチローさんのアドバイスで「コクサイ」ブランドを採用し、モデルガンに本腰を入れ始めた頃から設計を手掛けるようになったのが岡田節雄さんだ。コクサイは1981年にイチローさんと正式なアドバイザー契約を結ぶと、モデルガンのクオリティを一気に上げ、いくつもの画期的な製品を発売していった。
多くは地味で目立たないような改良で、一般のモデルガンファンにはほとんど伝わらないようなこと。しかし現在に引き継がれていることも多く、実は重要なものだった。
それらの中で一番派手で多くの人が知っているのがメタルブルーフィニッシュ(メタルフィニッシュ)だろう。たぶん最初に採用されたのは同社のブローニングM1910。
それまでのプラスチックモデルガンの仕上げ、表面処理は、地肌そのまま、またはめっき(ニッケルかクロームのシルバー)しかなかった。地肌そのままの場合、金型を磨いたピカピカの表面か、わざと梨子地に仕上げたサテンフィニッシュ(つや消し)の2パターン。ピカピカの方が銃っぽかったもののヒケが目立ち安っぽく見えることから、大人にはしっとりとしたサテンの方が人気だった。これはのちに塗装でつや消しにする方法へ移行して行く。
コクサイの岡田さんは、プラスチックでもどうにか実銃のようなガンブルーの質感を再現したいと、めっき屋さんと相談を重ね、まずブラック・ニッケルめっきを採用することにした。これはガンメタルやガンブラックと呼ばれることもあるらしく、イメージにはピッタリ。そしてその第1号がM1910だったという。
ただ、ブラック・ニッケルは濃いグレーという感じで、岡田さんとしてはもっと濃い黒にしたかった。そこで新たにアメリカで実銃を購入して採寸、型取りなどが行われ、新しく設計されたM19では、コスト的に高くなるがブラック・クロームに変更したという。これがまたファンのハートを射止め、大ヒットにつながったわけだ。
M19 & M66は発売と同時に話題となり、多くのファンが群がった。パッと見、金属のようで、プラスチックモデルガンの常識をくつがえした。唯一の弱点はトップコート(クリアコート)という色落ちを防ぐ被膜が、火薬を使って発火させると飛んでしまい次第にシルバーになってしまうこと。
ボクも友人も、発火はステンレスフィニッシュ(M66)、飾るのにはメタルフィニツシユ(M19)と使い分けていた。きっと2挺以上持っていた人が多かったのではないだろうか。このことも大ヒットの要因の一つだったかもしれない。後に、発火に適しためっきしていないスタンダードフィニッシュも発売されている。
実際のところ、M19もM66もそれぞれの仕上げをするため、非常に手間がかかるという。ボクは勘違いしていて、金型から出したらプレス機でランナーなど不要な部分を抜いてそれでおしまいだと思っていたが、まったくそんなことはない。治具を使い、ドリルで穴を開け、正確な寸法が必要な部分はフライスで加工。さらにパーティング・ラインをエンドレス(研磨機)を使って手作業で消す。これをさらに専門の研磨屋さんに出し、細部まで磨き上げた後めっき処理するわけだ。何とステンレスフィニッシュは、このあとさらに研磨してわざとヘアラインを入れているのだという。また、めっき屋さんによって同じクロームめっきでも色調が違うため、いろいろ探し回って一番ステンレスに近いところに依頼したという。
ここまで手間をかけても、バレルに改造防止のスチール硬材のインサートが入っているため、製造から1年くらいすると収縮の差でクラックが出るものがあったという。当然返品となってしまうわけで、歩留まりが悪かった。
それなら、めっきを掛けないスタンダードは手間がかからず簡単だろうと思ったら、そうではないのだという。地肌がそのまま表面となるため、ヒケやバリ、パーティングラインはもちろん、細かな傷などもすべて消さなければならないのだそうだ。ほとんど一皮むくくらい研磨するという。
さらなる革新的改良の1つがカートリッジ。ベースは六人部登さんが開発したスプリング内蔵の可動カートリッジだが、岡田さんはこれをもっとリアルにしたかった。そこで、実弾のように真ちゅうの薄板をしぼってケースを作り、そこに弾丸相当のパーツを圧入し、雷管に相当する部分を貫通する軸にして、ここが可動して発火する新カートリッジを考案した。ケースにはクロームめっき、弾丸部には銅メッキという実にリアルなものだった。これは1980年に発売されたプラスチック製と金属製のパイソンから.357用として使われている。
しかし、この新カートリッジは後期になってちょっと角張っためっきなしの真ちゅう製になっている。この理由を岡田さんに伺ったところ、真ちゅうの薄板を叩き出してケースを作れる会社は1社しかなく、やっと探し出したそうだが、そこの職人さんがやめてしまい、作れるところが無くなったのだという。そこで仕方なく、普通の真ちゅうの引きもの(切削加工)にもどしたそうだ。そうだったのか。
また5mmキャップ仕様だったカートリッジがのちに7mmに変更されているが、これもまた仕方なくだったという。トイガンの主流がエアソフトガンに移ったことで、コクサイのキャップ火薬の製造を担当していた会社が製造をやめてしまったらしい。7mmキャップの方が迫力もあるということで、それを機会に仕様を変更したそうだ。
コクサイでは、ラウンドバットのフレームとスクウェアバットのフレームを金型の一部(グリップ部)を入れ替えることで、1つの金型で製造しているという。これも当時としてはユニークな方法だった。確かに、良く見てみると、グリップ部背面のセレーション上部と、フロントストラップ部の厚みの変わるところにパーティングラインがある。
金型の工夫はそれだけではなく、業界では不可能とされていたプラスチック用の金型を金属用に転用するということもやっているという。そういえばコクサイは一定期間を置いて、金属とプラスチックで同じモデルを作っていた。非常識と言われたそうだが、金型を工夫してそれを実現した。M19はプラから金属、再びプラ、そして金属と、何回か繰り返しているそうだ。しかもM19 / M66はプラスチック製モデルガンの自主規制規格SPGの合格第1号だという。
手間がかかってコストが高く、歩留まりも悪い。それでも、大ヒットとなったので作り続けることができた。そして改良が続けられ、現在もなお現役。これはまさに名銃の証だろう。
今回撮影のため貸してくれる方を募集したら、申し出てくれた方が非常に少なかった。買った人も多いし、持っている人も多いはずだが、たぶんほとんどの人が発火して遊び、ボロボロになったのではないだろうか。撃っても楽しいモデルガンだった。
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:岡田節雄(コクサイ)
撮影協力: 柴田 孝、酒井 恒
モデルガンショップアンクル
Gun Professionals 2014年7月号に掲載
※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございます。


