
Gun Professionals 2020年3月号に掲載
伝説のシューターであるミッキー・ファーラーを父に持つローガンは、優れたシューターとしての資質を受け継ぐとともに、独自のカスタムガンを製造供給している。彼の作り出すグロックカスタムは、過剰な装飾や強度を損なう軽量化は行なわず、実用性と必要とされる機能をバランスよくまとめた逸品だ。
ローガンとの出会い
2020年2月号で取材したミッキー・ファーラー(Mickey Fowler)さんの息子、ローガン(Logan Fowler)との最初の出会いは2012年パイルーで行なわれたスティールチャレンジだった。ヘイニーサイトとバーストバレル交換していたものの、トリガージョブもしていないG17 RTS2を使い、SSP(Service Stock Pistol:サービスストックピストル)部門1位、総合4位という成績で度肝を抜かれた。それもわずか2 ヵ月の練習期間での結果だというからさらに驚く。
それから数年後、そのローガンがFI(ファーラーインダストリーズ)という会社を立ち上げた事を知った。その頃はまだカスタムグロックメーカーが現在ほど多くなく、Glock Worx(グロックワークス:現在のZEV Technologies)、Salient Arms International (セイリアントアームズ:SAI)、そしてTaran Tactical Innovations(タランタクティカルイノベーション:TTI)も発展途中の頃で、またAgency Arms(エージェンシーアームズ)も出現したばかりというタイミングだった。
今回はミッキーさんと同時に取材を行なったFIの製品を紹介してみたいと思う。
ミッキー・ファーラーさんの息子、ローガンの会社ファーラーインダストリーズ(Fowler Industries)の作業場。少人数なメーカーながら様々なカスタムグロックを組み上げている。
スライドの加工はベイエリア方面の加工屋に依頼。4130スチール素材を5軸CNCで切削し、許容差を狭めて精密加工している。当初はグロック純正スライドを加工したが公差のバラツキや工作機械のカッターの消耗が激しく、最終的に自社製スライドに方向転換。表面処理にはTiN(Titanium nitride:チタンナイトライド)コート、ブラックナイトライド、DLC(Diamond-like Carbon)、Cerakote(セラコート)などオプションがある。全てのスライドにはライフタイムワランティ(生涯保証)がついており、破損の際には交換して貰える。FI設立時、最初に製作したカスタムグロックの数は25挺から28挺で、右側の2つは最初に発注したものの残りだ。
カバープレートも各種デザインや表面処理がある。
カスタムバレルは、バーストプレシジョン製マッチバレルにカスタムし、TiNコート、DLC、PVDコート特殊表面処理を加えたものを供給している。
FI
ローガンがグロックのカスタマイズを行なうようになったきっかけは、2010年頃に父親であるミッキーさんからビアンキで使用するG34のフレーム加工を依頼された事に始まる。その技術を活かして最初の2年ほどEPP社の仕事を請け負い、グロックのフレームワークだけに専念して経験を積んだ。
大学に進学するも本当にやりたいことはやはり銃器関係(特にグロック)であると再認識し起業することを決意。1年かけて加工屋を探すものの希望に沿う製造品質を持つショップは見つからなかった。 銃器販売ディーラーのライセンスを取得し、2016年にFI社をスタート。この頃には現在もグロックのスライド加工を担当するショップと出会い、FI独自のグロックの製品化が加速する。次に誰も製品化したことのないようなグロックの金属トリガーのアイデアを温め、それを製造可能なショップを探したが容易には見つからず、起業から最初の1年は純正トリガーを使用し続け、その後加工屋が見つかりトリガーの製造が開始した。
見た目ばかりのカスタムグロックは作りたくないという考えから、マッチバレルを加工してタイトにフィットさせ、命中精度を引き上げている点は特筆すべきところだ。そもそもグロックにシリアスな命中精度向上を追求する人達はそれほど多くはなかった事から、多くのカスタムバレルメーカーはグロック用ガンスミスフィットバレルの製造を行なっていない。ローガンはBar-Sto Precision Machine(バーストプレシジョン)のバレルをフライス盤で加工し、グロックにカスタムフィットさせている。2,000ドルを超える価格のカスタムガンでありながら、命中精度にあまり変化がないというのも面白くない。ローガンの精度に対する姿勢にはとても好感が持てた。
FIのアルミ製ZEROトリガー。他社のような引きやすさや軽さに重点を置いたものではなく、フラットさとフィーリングの向上を目指したものだ。指をかけるとトリガーセイフティが押し込まれるが、切り欠きに沈み込まずトリガー表面とフラットになる位置で止まる。1911のようなフィーリングを目指したが、グロックのグリップ幅が広いことから僅かにアングルを加え、両側を大きく面取り加工し、先細にすることで繊細なトリガーコントロールができるようになっている。落下による暴発が起こり得ないドロップセイフを徹底すべく、スプリング類は純正スプリングを推奨している。安全性重視の姿勢からトリガートラベルも僅かに短縮する程度にとどめ微調整機能も省いている。
G19XベースのMk 1
FIではスライドにウィンドウ加工を施していないモデルをMk 1と呼称している。
スライド側面から上面にも加工されたフルトップセレーション。Mk 1のスライドは軽量化の穴を開けず強度を重視したデザインになっている。ローガンによればカスタムグロックは市場に山のようにあるが、やり過ぎのデザインも少なくない(確かにそう思う)。闇雲にラインやカットを増やしすぎて、まるでエイリアンの宇宙船のようになってしまっている微妙なデザインも結構見受けられる。FIでは実用性のあるセレーション加工などを中心に、ある程度のシンプルさでまとめ上げている。
バレル先端のチャンファリング(Chamfering:面取り加工)とスライド先端部の形状がマッチし、先細りでスマートな印象を与える。
バレルとスライドのポケット加工が立体感を増す。
ダブルアンダーカットのトリガーガード
トリジコンRMR 取り付け用加工とカバープレートが付属する。1911ガンスミスで知られるJohn Jardine(ジョン・ジャーディン)がデザインしたEPP(エンハンスドプリシジョンプロダクツ)ロックバックリアサイトが採用されている。やや前方に傾斜した段の部分にセレーションを加えたタクティカルフックにより、ベルトや何かに引っ掛けてスライドを後退させる事ができる。
フロントサイトはトリジコンのHDナイトサイト
サイトピクチャー
カバープレートにいたるまで上部の広範囲にセレーションが加工されてデザインに統一感がある。
スライドを後退させると中間がフラット加工されたバレルが顔を出す。
グリップのスティップル加工。バックストラップ取り付け用の溝は残され本来の装着機能に支障はない。
バレルとスライド共に加工が加えられているが強度を損なうような極端なものではない事が判る。
内部パーツに関しては大きな変更はない。これはFIのポリシーによるものだ。コネクターは当初ゴースト製を使用したが現在はグロック純正の3.5ポンドコネクターを使用している。
他社による加工も加わっているが、左はG26のグリップをG17の長さまで延長したというユニークなセミサブコンパクト(?)だ。グリップが長くG19サイズの右モデルと比較してセミコンパクト感が強い。
G17 Gen3ベースのMk 2
フル360°テクスチャーと呼ぶ全体をスティップル加工したグリップ。マガジンキャッチ周辺部をカットし操作しやすくしたスキャロップカット(フレームの肉厚が薄いGen4&5では対応せず)を加え、フロントストラップのフィンガーグルーブを削り落としている(残す事も可能)。
Mk 2は2つのサイドウィンドウ、上面にひとつと合計3つの軽量加工のウィンドウが開けられているのが特徴だ。
G19Xとは違い、バレルがシャープな印象を与える。
G19 Gen4ベースのMk 2
他のモデルと同じくサポートハンドの親指が来る場所にもスティップル加工を施したForward Frame Flats(フォワードフレームフラッツ)を備える。各ピンの頭は押し込む時に滑らないように凹みを付けたディンプルピンを独自に設計した。
RMR取り付け用加工が標準化されている。
G34/35のカスタムスライド付きがMk 3。これはG34 Gen4ベースでマグウェルを備えた競技向けモデルになっている。FIのスライドデザインはロングスライドにもよくマッチする。FIにはこの他にトップセレーションに左右のウィンドウのみのMk 4、それにアングルドセレーション(斜めセレーション)を加えたCosta LudusスライドカットのMk 5がある。
フォワードフレームフラッツからAccelerator Cut(アクセラレーターカット)に変更。支えるサポートハンドの親指の収まりが良く安定感を向上させる。
ダブルアンダーカット加工ではないがトリガーガード下にもスティップル加工があり全体に丸みを与えている。
ファイバーオプティクスのフロントサイト。Griffin Industries(グリフォンインダストリーズ)のローニンラインとして47挺限定生産したもの。スライドの仕上げはENGプリシジョンコーティング社によるRonin Camo(ローニンカモ)。
トリガー周辺を大きくカットしている。
バックストラップはBoresight Solutions(ボアサイトソリューションズ)が始めたRazorback Modification(レイザーバックモディフィケーション)をコピーしたもので許可を得てGNP Tactical (GNPタクティカル)が行なっている。H&K VP9のアングルを参考にしたもので握りやすい。
RAVEN Concealment Systems(レイヴンコンシールメントシステムズ)社のFreyaマグウェル。コンシールドキャリーユースにも向いたスカートが控えめなデザインだ。無加工で取り付け可能。

アダプターを用いてGen3のリコイルスプリングガイド(ポリッシュ済み)を取り付ける。
FIのカスタムバレルは各部がオーバーサイズのガンスミスフィットバレルをフライス盤で加工して取り付けている点を高く評価したい。高価なカスタムグロックでも純正バレルを仕上げ直しただけで命中精度には殆ど変化がないものもあり、デザインやロゴを加えたグロック用カスタムバレルといってもドロップイン仕様が殆どだ。柔軟性の高いグロックのフレームでもバレル、スライド、ロッキングブロックをタイトフィット化させることでグルーピング性能が向上することは過去に筆者も度々検証し確認した。ローガンによれば30ヤードで1インチを切る精度が引き出せるという。
お父さんのミッキー・ファーラーさん。ローガンのシューティングの才能は素晴らしく、スティールチャレンジをその姿を見えて筆者も驚かされた。ミッキーさん自身も息子の能力を認めているほどだが、ローガンとしては大企業のスポンサーがつかない限りシューターを職業にするのは難しいと判断し、カスタムガン製造の道を選んだという。
少人数で運営するFI社なので、その製造キャパシティには限界があるが、ミッキー・ファーラーという伝説的なシューターを父親に持つ優れたシューターであるローガン自身が考案した様々なアイデアを形にしたFIのカスタムグロックは、他社のカスタムガンとはまた一味違う風格と内容を備えている。
ローガンの今年の目標はハイキャパシティマガジンを持つ1911系、つまり2011系のカスタムガン製造プロジェクトに着手する事だ。現在のカスタムグロックのスライドデザインを継承したタクティカルユースや競技に使用できる個性的なモデルに期待しよう。


今回はお客さんの銃を撮影したのでテスト射撃は行なえなかったが、ローガンが過去に組み上げたモデルのストックフォトを提供してくれた。
Photo & Text by Yasunari Akita
Special thanks to Logan & Mickey Fowler
Gun Professionals 2020年3月号に掲載
※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございます。