2025/11/15
ブラウニングハイパワー ナイトホークカスタム

Gun Professionals 2018年6月号に掲載

最後に脚光を浴びたHP
2017年の末でブラウニングハイパワー(HP)の製造が打ち切られた事が輸入/販売を行なっていたユタ州のブラウニングアームズから報じられた。
1935年から数えて82年の歴史を持つ有名ハンドガンであっただけにショックを受けたのはHPファンだけではない。そこで先月改めてHPを記事にしようと思いつき、そして映画プロップマスターのロック・ガロッティ氏に映画『ビバリーヒルズ・コップ』でエディ・マーフィが使用した実際のHPを持ってきてもらい撮影を行なった。
この撮影の際に「いよいよ製造中止ですね。ナイトホークも限定で最後にカスタムHPを出してますけど、今後カスタムガン製作するなら中古市場から探さないといけなくなりますね…」などとロックさんに話していたところ「あっ、そうだ。だったらナイトホークのオーナーとは仲が良いから、今のうちに注文しておこうかな」と思い立った様子だった。
その時、彼がどこまで本気なのか知る由もなかったが、取材の数日後にロックさんから連絡が入った。
「ナイトホークの社長にお願いしたら、直ぐに組み立て始めてくれたよ。 数週間後には手に入るはずだ。それとオーナーの計らいでちょっとだけ特別仕様にしてくれるらしい」と言うことだった。
なんともアクションが早い!それにしてもHPは紹介したばかりなので…と思ったものの、松尾副編集長に相談し、2ヵ月続けてHPを記事にすることにした。
ナイトホークにも製造中止の話はブラウニングアームズから事前には知らされていなかった。しかし、この度のニュースを聞いたナイトホークは直ぐにブラウニングアームズに連絡し、最終出荷分を全て買い取ったという。同社のカスタムガンは3,000ドル以上と高価だが、もう新品が手に入らないと知ったHPファンから予約が殺到し、ロックさんが連絡した時点で完売状態だったそうだ。最後の最後、HPは改めて脚光を浴びた形になっている。
ナイトホークカスタム
SHOT SHOW記事でもお馴染みの有名ブランドだ。アルカンザス州ベリービルに拠点を置く同社は、2004年にカスタム1911製作に熱い情熱を抱く4人のガンスミスにより設立され、現在は65人以上の従業員を抱えるカスタムガンメーカーへと成長している。
今回の主役であるカスタムハイパワーの他にも40種類以上のカスタム1911があり、ハンドガンの他、レミントン870系などタクティカルショットガンでも有名だ。過去に限定でボルトアクションやAR系ライフルも手がけてきた。はたまたカスタムナイフまで展開している。2016年からはドイツのKorth(コルス)と提携し、カスタムリボルバーの分野にも進出している。
同社はまずオーダーが入ると各注文に対して担当ガンスミスを割り当てる。部分的な流れ作業で担当者を別けるのではなく、作業開始から完成まで一人の担当者だけに面倒を見させるのだ。それにより品質を安定させる方針を貫いている。
たとえ何か問題が生じても、担当者がその銃の全てを把握しているので的確に問題点を洗い出すことができ、再調整を行なう仕組みで、同社の製品は左側のグリップパネルを外すと、フレーム表面に担当者の名前が刻印されていることが確認できる。この方針により担当者はナイトホークの看板を背負って製品づくりに向き合うので、手を抜いた事は行なえなくなる。
もちろんのことだが、可能な限り手作業で行ない、追加または交換するカスタムパーツは全てオーバーサイズの切削加工品で、手作業ですり合わせして組み込まれる。同社はキャストやMIM製部品は使用しない。
セミワイドなカスタムトリガーによりトリガープルが向上している。分解出来なかったので内部が確認できなかったが、キャストではなく切削加工で製造されたカスタムシアによって、オリジナルにあった硬い感触が取り除かれてカリッとした歯切れの良いトリガープルになっている。
空撃ちは2回だけ許可をもらった。1度目はトリガーフィーリングをみるため、2度目はトリガープルを計測するためだ。そのため平均値を出している訳ではないが、結果4.25ポンド(約1.9kg)と出た。ナイトホークでは4ポンド(約1.8kg)としている。キャリーガンとするなら適度な重さだ。
カスタムHP
2015年初頭にナイトホークはカスタムHPのオファーを開始した。細身のスチールフレーム、HPはハイレベルなキャリーガンを求める人達から信頼を得ていたからだ。その内容とは以下の通りだ。
スティップリング加工
HPのフレームは厚みに限りがあるので1911系のようなチェッカリング加工が施しにくい(それでも薄く加工してする人もいるが)。そこでグリップ前後の表面にシボ加工のようなテクスチャーを加工し、それはトリガーガードの下面にも及ぶ。同時にスライド上部から後方にも施される。
カスタムエクステンデッドビーバーテイル
ロックさんのように手の大きな人の場合、ハンマーバイト(ハンマーに手の皮を挟まれる現象)が起こる事がある。そこで溶接作業で延長する。
マガジンウエルの拡張
挿入しやすいように、マガジンウエル(挿入口)は角を落とされている。通常大型マグウェルを溶接するといった事は行なっていない。
フレンチボーダー
スライド上面と側面の境界線にあるラインカット。上面のスティップリング加工との境界がクリアになりエッジが引き締まって見える。
サイト交換
Novak Cut Solid 14 Karat Gold Bead Front Sight(ノバック14K ソリッドゴールドビードフロントサイト)とHeinie's Slantpro Black Rear Sight(ハイニースラントプロブラックリアサイト)に交換した。ハイニーサイトの設計者であるリチャード・ハイニーと同社は関係が近く、一部のカスタムガンのデザインにも関わっている。
バレルのクラウン加工
バレルはブラウニングのオリジナルだが、クラウンを再加工。同時にスライドのフィッティングもタイトにしてある。
トリガージョブ
コンペティションスチールハンマー、カスタムシアとシアレバー、ワイドトリガーに交換し、最良のトリガージョブを施す事で4ポンド(約1.8kg)のクリスプな切れをトリガーに与えている。
セラコートサテンラストレジデント仕上げ
追加料金は必要とせず、コヨーテタン、バーントブロンズ、タクティカルグレーなど各種カラーにも変更可能。
グリップの変更
同社ロゴ入りのカスタムココボロチェッカードグリップ。前方のみにチェッカリングを与えたデザインが実に銃にマッチしているが、G10グリップを選ぶことも出来る。
これらがこのカスタムの基本となる内容だが、この他に75ドルから350ドルの追加費用で異なる仕上げにすることも出来る。基本価格は3,195ドルで決して安いモデルではないが、これはHPに厚い信頼を寄せる人達のためのカスタムHPなのだ。
長い歴史の中で最後に製造されたモデルの1つがこうした最高級カスタムHPへと作り変えられたというのも何とも味のある話だ。
Photo & Text by Yasunari Akita
Special thanks to Rock Galotti & Nighthawk Custom
Gun Professionals 2018年6月号に掲載
※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございます。


