2025/11/24
2017年、ブラウニング ハイパワー製造終了 さらば、ハイパワー

Gun Professionals 2018年5月号に掲載
かつて多くの国で幅広く使用されてきたブラウニング ハイパワーが遂に製造中止となった。ジョン・M.ブラウニングが設計した1911がコルトをはじめとする多くのメーカーで製造され続けている事とは対照的だ。この明暗はなぜ生じたのだろうか。
製造中止のアナウンス
今年のSHOT SHOWでもブラウニング(ユタ州にあるブラウニングアームズ カンパニー)からは大口径ハンドガンの新製品は登場しなかった。同社は民生用のライフル、ショットガンが中心で、ハンドガンには積極的に取り組んでいる様子はない。
新製品なら他社からいろいろ出ているので、ブラウニングから注目すべき新製品がなくても、別にどうってことはないが、あの著名な銃器設計者ジョン・M(モーゼス). ブラウニングの名を受け継ぐブランドから、たまには何か大きなものが飛び出て欲しいという期待感は捨てきれない…しかし、もう何年もずっとおとなしい状況だ。
いまの同社のハンドガンの中心はといえば、.22口径のバックマーク、1911をスケールダウンした.22LRと.380ACPのモデルで、年少者を含めた射撃練習用、そして娯楽射撃(いわゆるプリンキング)までを対象にして安定した人気が約束されているものばかり。全体的におとなし目なスポーティングファイヤーアームズだけでも経営が安定しているブラウニングは、競争の激しいハンドガン市場で大冒険をする気持ちを持っていないのだろう。
それでもベストセラーの看板ピストルが現在も残されていた。それがブラウニング ハイパワー(Browning Hi-Power、以降HP)だ。しかし、HPに新たなバリエーションは現れず、目立った動きが感じられなくなって長い月日が経った。同じくブラウニングが設計した1911のような発展性、拡張性はなく、現在の市場で売り続けるのには限界が訪れていたからだ。
第2次世界大戦から現在に至るまで多くの紛争を生き抜いてきたHPはイギリスのSASなど名立たるエリートユニットを含む、世界中の軍・警察で採用され、大量のライセンス品やコピー商品が製造されてきた。その総数は1億挺以上とされる。まさにブラウニングにとってはアイコン(象徴)である。
1911のバレルリンクをカム方式に改め、ダブルスタックマガジンを標準装備させ、現代セミオートマチックピストルには当たり前のように備わる特徴を実現した点でもエポックメーカーだった。
ところがつい先日、衝撃的なニュースが駆け巡った。同社WebサイトにNo longer in production(生産中止)の文字が飛び出したのだ。
「HPはジョン・モーゼス・ブラウニングが設計した銃器の中でも最も優れたモデルの1つです。まだこの時点でなら全米中のディーラーが流通在庫として抱えている数少ない製品を手にすることが出来るかもしれませんが、ハイパワーは既に製造を終えております。いま出荷されているものが全てです。ここに記す2種類のモデルが最後に製造されたHPです。2017年末をもって出荷は終了致しました」と解説されていた。
最後の2種類というのはオートマチック・ファイアリングピンブロック・セイフティを追加したMarkⅢと、そのポリッシュドブルー仕上げ(ウォールナットグリップ付き)のことだ。
あれだけ数多くバリエーションが生まれたHPが遂に終焉を迎える…1935年の生産開始から82年後に遂に幕を閉じる瞬間が訪れた事は衝撃的で、惜しむ人達からコメントが行き交り、大きな歴史の1ページが幕を閉じてしまった事を実感させられた。
今回は、そんなHPがどうして現在の市場で生き残れなかったのか?何が同じ生みの親の1911との明暗を分けたのか? について分析しつつ、改めてHPについて見ていきたいと思う。
ブラウニングのハンドガン達
以前のブラウニングは活発で、パートナー(銃を代わりに生産してくれるメーカー)を見つけては色々と挑戦する会社だった。
1977年、まだアメリカに本格的に進出前のSIGと手を取り合い、SIG P220をBDA(ブラウニングダブルアクション)の名前で販売した。同じ頃にベレッタと協力してベレッタモデル84ベースのBDA380を20年間ほど販売した。
次にベルギーのFNが米軍サイドアームトライアルの折に開発したHPのDA版のBDA9(またはHPDA)が開発された。FNも含めて市販に消極的で、かなり時間を経った2001年頃にデコッキングレバーを改良したモデルを販売したがまもなくカタログから消えた。
90年初頭、珍しくブラウニング自身が積極的に舵を取りBDM(ブラウニングダブルモード)を開発する。BDA9を基にスライドのセレクターを回転させるとDA/SAとDAオンリーを選択できる新機構を盛り込み、FBIの制式採用の枠を狙って開発が進んだとも言われていたが、そんな事にはならず、市販も伸びず数年後に生産中止。
その後はFNの動きに便乗し、ハンマー方式のポリマーフレームであったFNP-9から派生したブラウニングPRO-9を発売した時期もあったが、やはり販売を終えている。
FNは2009年にFNPシリーズを進化させたFNX、それをストライカー方式に改めたFNSへと広げたが、ブラウニングはついて行かず、結局残されたのは安定した人気を維持していたHPだけとなった。




