2025/08/18
MGC MODEL-1897 SHOTGUN【Vintage Model-gun Collection No.17】
Vintage Model-gun Collection -No.17-
MGC
MODEL-1897 SHOTGUN
(1975年)
Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2013年8月号に掲載
MGCのM31ライアット・ショットガンが発売されて半年ほどでM1897が発売された。価格はM31の1.5倍ほどもしたが、本格的なメカニズムを搭載しており、ハンマーがコックされるとフォアード・グリップを動かせなくなるなど、コアなファンも満足させるものだった。予想どおり大ヒットとなったが、1977年に第二次モデルガン法規制が施行されるとあっさり姿を消し、M31のように復活することはなかった。



諸元
メーカー:MGC
名称:モデル1897ショットガン(20インチポリスモデル)
(MGCでの表記はウィンチェスターM-97が多い)
主 材 質:亜鉛合金
作動方式:ポンプアクション
発火方式:前撃針(チャンバーレス)
撃発機構:ハンマー
使用火薬:平玉紙火薬
カートリッジ:12ゲージ、2-1/4インチ、ショットシェル
全長:958mm
重量:3.3kg
口径:12ゲージ
装 弾 数:6発+1
発 売 年:1975(昭和50)年
発売当時価格:¥15,000(MGC創立15周年記念特別価格)、カートリッジ10発 ¥2,000
※ smG規格以前の模擬銃器(金属製モデルガン)は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて、規制の対象となることがあります。合法的に所持するには、クリアーイエロー等を吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。
第二次世界大戦後、娯楽に飢えていた日本人の心を捉えたのは、アメリカの西部劇だった。それがやがてプラスチック模型や、TVドラマの『コンバット!』などのヒットでミリタリー人気へと変わっていく。そして1960年代末から1970年代にかけて映画『ブリット』(1968)や『ダーティハリー』(1971)などの現代ものが徐々に増えて、ポリス人気が高まっていった。
こんなときMGCのショットガンは企画された。ポリスならM19やパイソン、オフィシャルポリスとポリスショットガンだろうというわけだ。2012年9月号「MGC M31-RS」で触れたように、この時点ではM1897(M97)とM31が候補に挙がっており、M97は基本設計がすでに終了していた。
なぜM31とM97だったのか。もちろんショットガンは猟銃としてほかの銃より身近な存在で、現用モデルだと悪用される心配があったということもある。しかし最大の理由は、輸出を手掛けていたアメリカのRMI(現コレクターズアーモリー)のトーマス・B・ネルソン社長(当時)から、M97を作って欲しいという要望が寄せられていたことだったという。つまり、作れば日本国内で売れなくても、輸出で元を取ることが可能だったということだ。
歴史的価値や人気から言っても、レミントンのモデル31よりウィンチェスターモデル97のほうがずっと良いというのがネルソン社長の主張だったそうだが、実は映画『ワイルドバンチ』(1969)の大ファンで、ガバメントのM1911(A1じゃないほう)とともに使われていたかららしい。アメリカでもこの映画の評価は高くファンも多い。だから売れるだろうという見込みだった。ただし、アメリカではショットガンはハンドガンよりもユーザーがうるさいため、メカニズムはもとより外観もリアルに作って欲しいというリクエストがあったという。そして、MGC社内でも言われていたことだったが、シェルのサイズを少し細くして欲しいということと、チャンバーレス構造にして欲しいということが加えられたという。


そこで、当時MGCの設計部長だった小林太三さんは、まず資料集めを始めた。ところがモデル97は構造が複雑で、パーツ表や構造図を見たくらいでは仕組みがわからなかったという。すぐにアメリカへ取材に行くことになった。ネルソン社長がモデル97を持っていた。しかし所有者であるネルソン社長も分解できなかった。コレクションのメンテナンスを担当している専門家を呼んで分解してもらったそうだ。
現物を見て初めて小林さんも仕組みが理解できたという。なんじゃこりゃと思った。まるで立体パズルのような構造。しかも設計が古いだけに、ほとんどのスプリングが板ばねで、使っているピンをいちいちネジでロックするなど、パーツ点数が多くて手間のかかるものだった。
フォアードグリップ(MGCのパーツ名)を引くと、ハンマーの後方にあるキャリヤー・ピンを中心に、主要メカを載せたキャリヤーフレームがガシャーンと下方に飛び出てくる。そしてボルトは大きく後方に突き出る。
ハンマーがハーフコックかフルコックのときアクションをロックして操作できなくする機構を持ち、これは外装式のハンマーを手でコックしても機能する。またトリガーを引きっぱなしでフォアードグリップを操作するだけで、ボルトが閉鎖すると自動的にハンマーが倒れて連射が可能になる機構も持っている。
複雑な構造をモデルガンとして再現するだけでも大変なのに、これをチャンバーレスで作らなければならない。これは至難の業だった。
設計は1年以上に及んだ。その間、悩みに悩み苦しんだ揚げ句、小林さんは2回ほど社長に止めさせてくれと申し出たという。しかし「一度受けたんだから、そんなみっともないことはできない」と聞き入れてもらえなかった。
大変な苦労の末に完成されたM97だったが、構造が複雑で、15,000円(のちに17,000円)と当時ではかなり高価なものになってしまった。そのため、発売は1万円を切ることが可能だったM31が先行することになったのだった。
小林さんはショットガンを猟銃としてデザインしたくなかった。そこでベースとなるモデルは20インチバレルを装備した警察用のライアットガンにした。






ここで少し実銃について触れておくと…… ウィンチェスターは1890年、ジョン・M・ブラウニングによるハンマー露出タイプのポンプアクションショットガンを採用し、改良を加え1893年に黒色火薬用のモデル1893として発売する。しかし間もなく無煙火薬の弾薬が普及し始めたため、メカニズムの強化を図ったモデル1897(モデル97)を発売した。これは大ヒットとなり、狩猟用のほか競技用、警察用(ライアットガン)、軍用(トレンチガン)が作られた。
製造は、後継モデルのハンマー内蔵式モデル12が発売された1912年以降も続けられ、“WINCHESTER AN AMERICAN LEGEND”によれば一般モデルとライアットガンは1939年まで、トレンチガンは1945年まで製造されたという(1957年まで製造されたとする文献もある)。
標準モデルに対して、銃身の根元から二分割できるテイクダウンモデルも作られた。映画『ローリング・サンダー』(1977)で、トミー・リー・ジョーンズが使っている。バラされたモデル97を組み立ててから撃つのだ。
ネルソン社長のところにあったのは、このテイクダウンモデルだったという。安全対策上モデルガンで二分割式を再現するわけにはいかないので、外観だけを再現した。レシーバーとバレルの接合部右面のバンド状の部分にある小さな四角い出っ張りは、その分解用のレバーなのだそうだ。
先行した廉価版のM31に対して、後発でかなり高価となるM97は、設計に多いに苦労した小林さんの思い入れもあり、ストックも凝ったものにすることになった。






小林さんは、必ず返すからと約束して、ネルソン社長からモデル97のストックを借りてきていた。そして古き良き時代の手がかかった形状を正確に再現するため、アクリル板を使ってゲージを作った。断面形状だけでも3枚ほどあったという。
担当したのはいつものように大和木工。お任せにすると焦げたような黒っぽい色を塗るから、小林さんはワトコから塗料サンプルを取り寄せると、この製品番号の塗料を使ってくれと指定したという。材料はクルミ(ウォルナット)で、木目を生かすためかなり薄い色にしたそうだ。しかも一度塗ったあと一旦拭き取って、木目がよく見えるようにしているという。
それらを徹底させるため、小林さんは大和木工近くの旅館に泊まり込み、ケンカしながら納得のいくストックを仕上げていった。だからM97のストックは、スタンダードモデルであってもM31のデラックスモデル並に美しく、手や肩になじむストックだったのだ。
パッケージも小林さんがデザインした。おそらく自分でデザインしたパッケージの最後あたりだと思うとのこと。“RIOT ACT”の手書き文字の中に丸い弾痕のようなものが描かれている。数えてみると9つあった。それを小林さんに尋ねると、「遊びで、バックショットの九粒弾の弾痕を描いたんだ」というお答。やっぱり。
M97のハンドメイドの試作モデルは、ネルソン社長に贈られた。そのメカを見たネルソン社長は思わず笑ってしまったという。
苦労して苦労してやっと完成させたM97だったが、1977年12月1日から第二次モデルガン法規制が施行され、バレルとレシーバーを一体で作ることができなかったため、国内市場から姿を消すことになってしまう。わずか2年ほどの短い寿命だった。




チャンバーレスなので前撃針はすぐそこにある。紙火薬仕様のため分厚い。上の突起(矢印)は支えのないボルトが右に傾くのを防ぐためだという。


参考文献:
WINCHESTER AN AMERICAN LEGEND / R.L. WILSON /CHARTWELL BOOKS, INC. VISIERE '75 MGCニューモデル特集号/ビジエール編集部/ダイヤモンド |
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:タニオ・コバ 小林太三
撮影協力:ます兄
Gun Professionals 2013年8月号に掲載
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