2025/05/11
アストラCUB .22 ショート【今月の,どマイナーWORLD! 8】
今月の,どマイナーWORLD! 8
メジャーが見初めたマイナー銃
ASTRA CUB 22 SHORT
Text & Photos by TOSHI
Gun Professionals 2014年12月号に掲載
アストラが先
このコーナーでご紹介する銃は、往々にしてマイナーがメジャーを真似た“パクリ”が多い。イヤ、殆どがそうであると言って良い。
が、今回のアストラCUBは違う。その逆だ。何しろコイツは、あのジュニア コルトの元ネタだからだ。ご覧の通り、まるでそっくり。ニセウルトラセブンよりも遥かに似通ったこの姿。
と言っても、さすがにコルトは勝手にパクるような真似はしなかった。アストラ社がサブコントラクトで生産し、それをコルトが輸入して自社ブランドで売っていた(1958年開始)のがジュニアだったのだ。コルトは当時、1945年に生産終了したモデル1908 ポケットオートの穴埋めを模索しており、そこにうまくハマったのがアストラだったのである。
アストラ社にとっても、それは悪い話では無かったろう。名前はどうあれ受注は嬉しいし、メジャーに引っ張ってもらって知名度を上げる絶好のチャンスだった。コルト側も、研究開発費を浮かせつつ、市場である程度タイムプルーフされた機種を危なげなく商品展開に生かすことができたのだから、願ったり適ったりだった。
であるから、このアストラをどマイナーと呼ぶのは幾分失礼ではあろう。知ってる人は知ってるに違いない。ただ、自分が日本でマルシンのジュニアコルトを買おうか買うまいか迷っていた頃(結局買わずじまいでした)には、そんな裏事情は全く知らなかった。
アメリカに来てからも、ずっと知らなかった。もしかするとアメリカのガンナッツでも知らない人は割りと多いかもしれない。まさかコルトも自発的に白状していたわけではないだろうし、案外「アストラがパクッたんだろ」みたいに逆に取ってる人が多い可能性もある。どこまで行ってもマイナーはツライもんだ。
それはともかくとして、今回主役のこのアストラ、登場は1954年である。口径は.22ショートと、.25ACPもあった。スペイン製とゆーことで、欧州銃特有のプルーフマークがグリップに隠れた箇所にチラホラ確認できる。姉妹品として長銃身の妙なモデルも存在し、そっちはCAMPERという名だった。米国への輸入はWashington D.C.のFirearm International Corporationが行なっていた。
作動方式は単純明快なストレートブローバックだ。トリガーがディスコネクターを兼ねる点やセイフティレバーの構造などは、ベレッタM1934にそっくり。バレルとフレームの噛み合わせ具合はモデル1908あたりに酷似している。
コイツの一番のチャームポイントは、可愛く露出したコーンハンマーだろう。この手の小型銃は、M1908にしてもブローニング・ベイビーにしても、ハンマー内蔵か、あるいはストライカー方式が多い。自分としては、ハンマー露出は何となく安心だし、わかり易いのだ。このハンマーにはハーフコックも付くから、チャンバーホットでの携帯も辛うじていける。
マグキャッチもポジティブなボタン式で好感が持てる。これでマグセイフティの代わりにグリップセイフティが付いてたら言うこと無しかも。既成銃の良いトコを取りまくり、シンプルかつコンパクトにまとめ上げた、マイナー銃にしては完成度が高い一挺とゆー風情だ。
ジュニアとの違いは、特に見当たらない。製造元が一緒だから、パーツも無論互換性がある。
ただ、仕上げは結構差があるというか、アストラのほうが上だ。例えばアストラはスライドの上部と後面及びフレームのストラップ部からトリガーの前面とハンマーの背面に至るまで、丁寧な艶消し仕上げだ。それに対し、ジュニアはスライド上部以外は全面テカテカだったりする。また、コルトはエッジが立ち過ぎてる部分とかもままある。
恐らくコレは、コルト側のコスト削減の要求に従ったものだろう。多少仕上げを落としても、名前で売れるからという計算があったに違いない。
ご覧のアストラは、今(2014年)から7年ほど前、カリフォルニア在住時代のガンショーで買った。67年製で350ドルだった。製造当時のカタログ価格を調べてみると、35.95ドル。筆者が購入した個体の箱には39.95ドルの値札が貼られていた。ちなみに同じ時期、コルトのジュニアは42ドルだった。正直、アストラとコルトが僅かな価格差で並んでいたら、どうしたってコルトを取るのが人情というものだろう。ブランドの力は大きい。なお、コイツは既に何度か撃っているが、調子は抜群。信頼性も充分高い。
1968年の米GCA法施行(小型銃の輸入を禁止した)によって、このアストラはアメリカ市場から消えた。同時にジュニアのほうも、スペインで製造していたために輸入禁止となった。
が、ジュニアは71年、COLT AUTOMATIC 25の名称で国内生産版が再デヴューしている。コレもまたコルト本社は手を汚さず、米国内の下請けが製造を請け負い、しかもフレームのみ米国製で他のパーツはアストラ社が供給するという裏ワザの製品だった(73年に生産終了)。
その後さらに、フロリダのF.I.E.がコルトと同じ手口で一時期生産販売を行なっている。これらの事実から見ても、アストラの根強い人気、アメリカ市場における馴染み深さがうかがい知れるというものだろう。マイナー生まれの良いトコ取り銃にしては、まさに異例の出世。それこそ“マイナー銃の星”には違いなかった。
しかし、だからこそ逆に、一種の物悲しさを自分はこのアストラに感じてしまう。コルトという大メジャーによって、結局は美味しい部分だけかっさらわれたような感じがしないでもないからだ。繰り返すが、我々の記憶の中では、あくまでもコルトの“ジュニア”が勝っている。
自分がマイナーな銃を愛でるのは、もしかするとそういった何処か儚(はかな)い、虐げられた運命に惹かれるからかもしれない。

Text & Photos by TOSHI
Gun Professionals 2014年12月号に掲載
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