2025/05/19
WA ルガーニューモデルスーパーブラックホーク 【ビンテージモデルガンコレクション 7】
Vintage Model-gun Collection -No.7-
WESTERN ARMS
RUGER
NEW MODEL SUPER BLACKHAWK
44 MAGNUM
(1978年)
Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2012年10月号に掲載
2012年、突如として『週刊漫画ゴラク』で連載が再開された「新ドーベルマン刑事」。これには驚いた人も多かったのでは。映画「ダーティハリー」と共に、日本にマグナム旋風を巻き起こした衝撃の作品だ。そこで、再び数あるブラックホークの中でも、特に異彩を放っていたWAのニューモデル スーパーブラックホークに再登場してもらうことにした。

諸元
メーカー:ウエスタン・アームズ
名称:ルガー・ニュー・モデル・スーパー・ブラックホーク44マグナム
材質:亜鉛合金、発泡ABS樹脂(グリップ)
撃発機構:シングル・アクション・ハンマー
発火機構:カートリッジ内発火
カートリッジ:インナーロッド方式
使用火薬:平玉紙火薬1~3粒
全長:33.65cm(7.5インチ・バレル)、41.50cm(10インチ・バレル)
口径:.44マグナム
重量:1,358g(7.5インチ・バレル)、1,440g(10インチ・バレル)
装弾数:6発
発売年:1978年
発売当時価格:7.5インチ・バレル ¥8,500(カートリッジ6発付き)
10インチ・モデル ¥9,500(カートリッジ6発付き)
DXタイプ7.5インチ・バレル ¥15,000(カートリッジ6発付き)
DXタイプ10インチ・バレル ¥16,000(カートリッジ6発付き)
オプション:専用木製グリップ ¥2,500
ガン・ケース ¥4,500
※smG規格合格品以外は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※ 1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー・イエロー等を吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではではありません。また価格は発売当時のものです。
WAのニューモデル スーパーブラックホークは、旧Gun誌2003年5月号の第8回で取り上げた。ただ、連載初期のため写真のカット数が少なく、その魅力を伝えきれていなかった気がしていた。ずっともう一度、取り上げたいと思っていたのだが、今年(2012年)に入って『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)で「新ドーベルマン刑事」(作・画 平松伸二、原案 武論尊)の連載が再開され、きっかけができた。
日本でマグナムブームのきっかけとなったのは、1972年に日本で劇場公開されたアメリカ映画の「ダーティハリー」(1971 )だった。これは同誌2011年5月号の「ハドソン製ブラックホーク」の記事でも書いた。ただ、この時期は映画館が低迷していた頃で、あまり多くの人が劇場へ行っていない。
「ダーティハリー」を観た人の多くは.44マグナムリボルバーが欲しくなり、当時、唯一ほとんどそっくりの外見だったMGCの.357コンバットマグナム6インチを買い、ヒットになったという記録が残されているくらい。
続いて公開された、警察の射撃大会が描かれた伝説の「ダーティハリー2」(1973)でさえ、1974年2月公開で多くの人が劇場で見ていない。再び映画に注目が集まり、多くの人が映画館にもどってくるのは、1974年7月に日本で公開されたホラーの『エクソシスト』(1973)あたりからだ。



アメリカではあまりの怖さに失神者まで出たということが伝わり、多くの人が怖いもの見たさに劇場に詰めかけた。その後「大地震」(1974)、「タワーリング・インフェルノ」(1974)、「JAWS/ジョーズ」(1975)、「タクシー・ドライバー」(1976)、「パニック・イン・スタジアム」(1976)、「未知との遭遇」(1977)、「スター・ウォーズ」(1977)などが立て続けに公開され、劇場は多くの人で溢れた。
そんな1975年から『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載が始まったのが「ドーベルマン刑事」(原作/武論尊、作画/平松伸二)だった。連載は1979年まで続けられたそうで、1977年には千葉真一主演の映画も作られている。
1976年には元祖マグナムの「ダーティハリー3」(1976)も劇場公開される。そして、1978年にはテレビ朝日系の「日曜洋画劇場」で「ダーティハリー」が放送された。
テッポウ好きはもちろん、アクション映画好きにもマグナムの名前は浸透した。本来の意味はわからなくても、走る自動車を1発で止めるようなパワーがマグナムだった。大きくて、強力、それがマグナムだった。 「ダーティハリー」も「ドーベルマン刑事」も、当時世界最強だった.44マグナムの銃を持つ刑事で、その行動パターンは型破り。それまでの刑事のイメージをくつがえすもので、まさにスーパーコップだった。
「ダーティハリー」のハリー・キャラハンはサンフランシスコ市警察の殺人課の刑事で、「ドーベルマン刑事」の加納錠治は警視庁の特別犯罪課の刑事。




ハリー刑事の銃がS&W社のモデル29の6.5インチだということはすぐに知れ渡った。実銃ベースのプロップガンが使われているのだから、調べればすぐにわかることだったが、当時資料は少なかった。.357コンバットマグナムの6インチが売れても不思議はなかった。
一方、加納刑事の銃はスーパーブラックホークの7.5インチだろうとはわかったものの、資料が少ない時代、描く方も大変だったようで、オールドモデルなのかニューモデルなのかハッキリしなかった。そもそもブラックホークのハンマーにファイアリング・ピン(ハンマー・ノーズ)があっていいのかとか……。
実は新連載の「新ドーベルマン刑事」でも雰囲気は当時のままで、ハンマーにはハンマーノーズがある。そしてフレーム側面のねじは3本。オールドモデルか?
それはともかく、そんなマグナム・ブームの中、1974年にMGCがプラスチック製のハイパトを発展させた.44マグナムの6.5インチを発売し、大ヒットとなっていた。そのものズバリの「ダーティハリー」モデルだった。続いてマルゴーやコクサイも、プラスチック製の.44マグナムの6.5インチを発売する。




ブラックホークの先鞭をつけたのはウエスタンアームズ(WA)だった。1975年に真ちゅう製カスタムの.357マグナム ブラックホークを、翌1976年に.44マグナム スーパーブラックホーク発売したのだ。
ただし、これは定価が10万円近い超高級カスタム。だれもが買えるものではなかった。このWAの.357ブラックホークをベースとして六研の六人部登さんが、誰でも買いやすい量産モデルガンとして設計した第1号が、1976年にハドソンから発売される。.44マグナムのスーパー・ブラックホークもバリエーションとして発売されたが、.357がベースにされていたので、基本サイズは同じだった。
当時、量産のブラックホークはハドソンしかなく、多くの人が群がり大ヒットとなった。その後、マルシンから1977年に金属製のブラックホークとスーパーブラックホーク、コクサイからプラスクック製のブラックホークとスーパーブラックホーク、1978年には金属製も発売されている。また、鈴木製作所(PBSS)からもプラスチック製のブラックホークとスーパーブラックホークが発売されている。
そんな中、亜鉛合金製量産モデルの最後発として1978年に発売されたのが、今回再び取り上げるWAのニューモデル スーパーブラックホークだ。まだ他社がどこも手掛けていないニューモデル、リアルサイズでの発売。



もちろん、ニューメカニズムがすべて再現されていた。万が一、コックした状態で落下させてハンマーが落ちたとしても、トリガーを引いていない限りファィアリングピンを打撃しないというトランスファーバーメカニズム、ハンマーダウンの状態で、ローディングゲートを開けるだけでシリンダーのロックが解除されて排莢・装填ができるシステムなど、すべて再現されていた。
当時は詳しい記事もなく、WAでも設計はすべて手探り。パーツ表などから理詰めで推測していったという。そして完成後、資料が手に入るようになって見比べてみたら、ちゃんと実銃と同じになっていて驚くと同時に安心したという。
しかも、1つの挑戦ということで、亜鉛合金の量産モデルでどこまで高精度に(タイトな公差で)作れるか試したモデルでもあった。各パーツの合わせがタイトで、シリンダーもロックされるとほとんどガタがなかった。もちろん実物グリップの装着も可能だった。
ただ、高精度にしたがゆえに、各パーツに掛かる負担は大きかったようだ。通常の亜鉛合金ダイカストの公差が±0.25mmであるのに対して、WAは±0.08mmでニューモデル スーパーブラックホークを製造した。当然パーツの変形や摩耗もこの公差を越えると作動不良の原因になる。ガンプレイのような乱暴な扱い方をすると、亜鉛合金では耐えきれなかった。






ここまで公差がタイトだと製造も大変だ。金型から鋳造品をとり出したら、バリ取りも±0.08mmの精度で行なわなければならない。組立でも、パーツは簡単にはまってくれない。すべてに手間がかかる。
さらに、表面仕上げが美しく、めっきされた表面はピカピカで鏡のようだった。パーティングラインもていねいに消されていた。ちょうど各社が表面仕上げをきれいにし始めていた頃だった。WAも手を抜くわけにはいかなかった。
これでほぼ他社と同じ価格だったのだから、利益は少なかったと思われる。それでも戦略的に必要なモデルだったのだろう。そのためか、あまり長期間販売されていたわけではなかったように記憶している。結局WAではもう金属モデルガンは作らないという決定がなされ、金型は廃棄されてしまったということだ。いまだに再生産を望む声が上がるそうだが、二度と作ることはできないモデルとなってしまった。ここがまた名銃たる由縁だろう。

●Vintage Model-gunとは
本コーナーにおけるヴィンテージ・モデルガンは、原則的に発売されてから20年以上経過した物を対象としています。つまり現時点で1992年以前に発売されたモデルガンということになります。
Text & Photos by くろがね ゆう
撮影協力:酒井 恒、maimai
Gun Professionals 2012年10月号に掲載
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