2025/05/15
Walther PPQ 45 SD ワルサー初の自社製45オート、そのサプレッサーレディモデル
Walther PPQ 45 SD
PPQ 45はワルサーが2015年に発表した同社初の自社製45ACPモデルだ。高い評価を得ている9mmのPPQ M2をベースに.45口径にスケールアップ、アメリカンライフルマン誌が選ぶ2017年のゴールデンブルズアイアワードのハンドガン オブ ザ イヤーを受賞している。これはそんなPPQ 45のバリエーションの中でも、サプレッサーを装着できるタクティカル仕様だ。
Photo&Text : Yasunari Akita
Gun Professionals 2020年7月号に掲載

Walther
ワルサーは、PPQシリーズの人気が順調に伸びてきており、けっこう好調だ。中でも、5インチやオプティックレディ仕様の競技向けモデルは、USPSAナショナルズのような大規模のマッチでも使用者が増え目立っている。
PPQシリーズだけではない。シングルスタックマガジンのPPS、内部メカはかなり異なるがエルゴノミクスデザインを継承したCCPも、キャリーガン市場に浸透している。そして昨年(2019年)同社のアイコンであるPPKとPPK/Sをアメリカ国内工場で復活させるなど、けっこう活気に満ちている。

PPQはP99から発展したポリマーフレームであるが、原型であるP99は現在のワルサーアメリカのカタログにはASモデルを残すのみで、完全に主力ハンドガンの座をPPQに明け渡している。
口径は9mmモデルが中心だ。.40S&Wモデルもあるが、アモ自体の人気低迷によりP99の頃のようには力は入れていない。代わってP99では加えなかった.45ACP口径のPPQ 45を開発し、アメリカ市場に本格的に挑んでいるのだ(もっとも、過去にはS&Wブランドで展開されたSW99には.45ACPモデルがあったし、1995年には社外で製造した1911クローン“ワルサービッグボア”を販売した実績はある)。
今月はスレデッド(ネジ付き)バレルを持つSDバージョンのPPQ 45 SDをラスベガスで取材した。このモデルはPPQの優れた面を継承しつつ、単なる大口径化モデルではない魅力を持つ.45ACPオートに仕上がっている製品だ。

P99
ワルサーの口径9mm×19オートの代表作は、言うまでもなくP38だ。DA(ダブルアクション)/ SA(シングルアクション)トリガーを内蔵し、フォーリングブロックタイプのショートリコイル方式を導入。スライドに備わったデコッキングレバー兼用のセイフティレバー、トリガーを引き切るまでファイアリングピンをブロックするセイフティ、チェンバーローデッドインジケーターなど、現代でも実用品として通用する先進的なデザインが1938年の段階で取り込まれていた。そして当時のナチスドイツ軍に採用されたことで、ワルサーは一流メーカーの仲間入りを果たしている。
そんなP38はドイツの敗戦とともに消え去ることなく、戦後にはアルミ合金フレームに切りかえ、小改良を加えたP1を開発した。西ドイツ軍は改めてこれを採用、ワルサーの時代が続いたのだ。

ヨーロッパでテロの嵐が吹き荒れた1970年代、西ドイツ警察はテロリストに対抗すべく装備の増強を決めた。その選定過程でワルサーはP38/P1の発展型としてセイフティレバーを排したP5を開発。SIGやH&Kと共にP5が採用されている。
米軍サイドアームトライアルを契機に主要各社がハイパキャパシティマガジンのDA/SAトリガーを備える9mmオートを本格的に開発する中、ワルサーはP38以来採用してきたフォーリングブロック方式を止め、他社と同じブラウニングタイプ改良型ショートリコイル方式に改めたP88を開発する。

戦後にP38をアルミ合金フレームで軽量化したP1が開発され、70年代にワルサーはそれを元に警察用のP5を開発した。その小型版がP5コンパクトだ。P5コンパクトはL102A1としてごく少数がイギリス軍でも使用された。1997年に発売されたP99(これはGen1で2004年にGen2へと改良)は、4インチバレルの15連マガジンを装備したモデルで、基本的にDA/SAだ。トリガーバリエーションとしてDAオンリー、AS(アンチストレス)、そしてプレコック式のP99QA(クイックアクション)が加わり、そのメカをフルコック式SAに単純化したQD(クイックディフェンス)が登場した。このQD仕様が2011年にPPQに発展した
アルミ合金フレーム、15連マガジン、フレーム両側にスライドキャッチレバーを兼ねるデコッキングレバーを備え、マガジンキャッチはどちらから押しても機能する完全アンビを実現するなど、同時期に登場したSIG P226よりスペック上は先進的であった。
しかし操作性が独特すぎる上にグリップ上部が太すぎる等の不満点もあったため、続くP88コンパクトでは小型化だけでなくP38のようにスライド側面にセイフティ兼デコッキングレバーを移し、スライドキャッチレバーを分離して一般的なデザインに軌道修正している。
工作精度も高くその命中精度にも定評はあったが、高価格が普及を妨げた。結果的にP88シリーズでは思うような成功を得られず、ワルサーの経営権はUMAREXに移管された。新生ワルサーは1997年、満を持してポリマーフレームのP99を発売する。

ワルサーはP38からその発展形であるP5まで、フォーリングブロック方式のショートリコイルを採用し、左側に空ケースがエジェクトされるのも特徴だった。しかしその次の発展型であったP88からは単純で信頼性の高いブラウニングタイプへと改良され、P99以降も同方式が受け継がれている。
P99はそれまでのワルサーハンドガンの系譜は無視し、当時求められていた機能を盛り込むことを重視した製品だ。それでもワルサーが得意とする先進的な部分も多々あり、そういう意味ではワルサーの伝統は継承されていたとも言える。
当時、ポリマーフレームの他社製品はハンマー方式によるDA/SA、ストライカー方式ではグロックのようなプレコック方式のSA、またはDAが存在したが、ワルサーはストライカーによるDA/SAという新方式でP99を完成させた。
また現在では幅広く普及しているフレームのバックストラップ交換機能はP99が先駆けだ。

P1からP88までは軽量化のためアルミ合金フレームが採用されたが、P99でワルサーもポリマーフレームを導入した。
マーケティングに大きな追い風になったのは発売された1997年に公開されたピアース・ブロスナン主演の『007 トゥモロー・ネバー・ダイ』(Tomorrow Never Dies)で早速ボンドの新サイドアームとして登場したことだ。
劇中ボンドは従来のPPKを持って登場するが、終盤のサイゴンのシーンでミシェル・ヨー演じる本作のボンドガール、ウェン・リンの武器庫からP99を見つけ「おお、新型のワルサーか。Qに調達するように頼んでおいたんだがな(Ah, new Walther. I
asked Q to get me one of these)」というセリフでその存在をアピールし、ステルス艦の中での最終戦で使用する(銃撃戦の最中に落とし消えるが)。その後のブロスナンのボンドの新サイドアームとして定着し、記念モデルまで発売され、ボンド役を継いだダニエル・クレイグの『カジノ・ロワイヤル』(Casino Royale)まで使用された(これ以降はなぜかPPKに戻る)。

ダブルスタックマガジンを使用するポリマーフレームの.45ACPオートはG21(13発)を皮切りにどんどん増えたが、グリップを含め大型化が目立った。その後M&P45やHK45など10連マガジンに抑えて握りやすさを重視したモデルが登場している。しかし、PPQ 45は12発の容量も持ちながらグリップの握りやすさを維持しているところが魅力だ。
コンパクトのP99cや.40S&Wモデルが追加されると同時に、トリガーシステムのバリーションも増えていく。DAオンリーのP99DAO、グロックのようにプレコック状態からのSAを内蔵するP99QA(クイックアクション)、そしてSAでもDAの位置からトリガーを引くP99AS(アンチストレス)を加えた。
ドイツ警察の一部を始め世界各国の警察で採用され、ポーランドのラドムがP99RADとしてライセンス製造した他、1999年にはS&Wブランドでワルサーがデザインを変更したフレームを製造・提供しS&W側がスライドアッセンブリーを製造するという合せ技でSW99が誕生。同様の手段でマグナムリサーチもMRイーグルを製品化した。




