2025/09/03
ドイツ連邦共和国 新型軍用ライフル G95A1 採用の背景と経緯

現在ドイツ連邦軍はG95A1、およびG95KA1をG36に代わる新型ライフルとして配備を進めている。この銃はどのような背景から採用されたのかについて、詳しくまとめてみた。残念ながらこのタイミングでG95A1そのものを取材することはできなかったので、その民間仕様であるMR95を取材、細部をご紹介する。
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このリポートを始めるに当たり、まずお断りしておきたいことがある。ドイツ軍は、ヘッケラー&コッホ(Heckler & Koch:H&K)のG95A1を新制式ライフルに選定し、現在納入が急がれている。リポーターは、このG95A1の実機取材を計画したが、ドイツ軍への納入が優先されている現時点において、現物にアクセスすることが認められなかった。代わりにリポーターたちがアクセスし細部の撮影ができたのは、将来警察や民間に市販することを目的として開発された同社のMR95だった。
MR95とドイツ軍が制式ライフルに選定採用したG95A1との違いは、MR95にはセレクティブファイア機能が組み込まれていない点にある。つまりMR95はフルオートマチック機能のないG95A1なのだ。
それ以外にも違う部分がある。今回取材したMR95と現在ドイツ軍に納入が進められているG95A1はハンドガードの形状と長さが異なる。G95A1もトライアル期間中にハンドガードの形状変更がおこなわれており、将来的に更なる変更が加えられる可能性もあるだろう。いずれにしても、ハンドガード部が異なっていることを承知の上でMR95を用いて今回の取材リポートを進めることにした。
またMR95の刻印は当然のことながら“MR95”であり、口径表示も民間向けの.223Rem.(223REMINGTON)となっている。またセレクタースイッチの表示も、これまた当然、セイフとセミオートマチック射撃モードの表示のみで、フルオートマチック射撃モードの表示が打刻されていない。
将来、ドイツ軍に納入されたドイツ軍向けのG95A1にアクセスできるようになったら、改めて取材してお伝えしたいと思う。ドイツ軍に納入されつつあるG95A1やそのカービンバージョンの外観全体の写真はすでに他の機会に撮影してあるので、このリポートに改めて掲載した。
G95A1選定までの長い道程
ケースレスライフル開発への挑戦
この銃が選定されるまでの経緯を振り返るには、少なくともH&Kが開発したG11まで遡る必要がある。軍用制式ライフルは継続してその国の軍隊の武装に用いられており、世代間で全く異なるものが採用されることは通常は無いからだ。特にドイツは一貫して国産ライフルを選定採用してきた国だ。そこには連綿とした継続性がある。厳密にいえば、19世紀からのドイツ銃砲史を記述しなくてはならないことになってしまうが、さすがにそれはできない。
リポーターがH&K G11まで遡る必要があると考えたのは、この銃はNATO軍の制式ライフル弾薬の変更という大きな外的要因から開発が進められたもので、ある種のボタンの掛け違いがそこから始まっているからだ。その経緯から解説していきたい。
第二次世界大戦後の1954年、アメリカ主導で7.62mm×51弾が西側の軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)の制式ライフル弾に選定された。これを受けて西側各国はこの弾薬を使用するライフルを選定採用する。
開発当初の計画では7.92mm×33や7.65mm×35といった短小弾を使用することを想定していたが、アメリカが7.62mm×51をNATO弾としたことで大きな設計変更を余儀なくされた。その結果、当初想定していた性能を発揮できなくなったが、それでもG3は多くの西側諸国に採用され、FALと共に冷戦前半における西側を代表するアサルトライフルとなった。
口径:7.62mm×51(7.62mm NATO:Patrone AB22)
全長:1,020mm
銃身長:484mm
重量:4,450g
マガジン装弾数:20発
作動方式:ローラーディレイドブローバック
しかし、7.62mm×51弾は、早い時期から第二次世界大戦後に軍用ライフルの主流となったアサルトライフルには強力すぎて適していないとも指摘されていた。アメリカ自身、ベトナム戦争中に7.62mm×51弾薬と共に採用した軍用制式ライフルM14の使用を止め、制式ライフルとして5.56mm×45弾を使用するM16A1に変更している。
アメリカ軍がこれを決断した最大の理由は、現代戦で用いられるフルオートマチック制圧射撃をおこなう場合、5.56mm×45弾のほうが7.62mm×51弾よりもはるかにコントロールが容易だったためだ。当時アメリカが戦っていたベトナムのジャングルでは、このフルオートマチック制圧射撃が必要だった。
その頃ヨーロッパでは、東西の対立から戦争が勃発する可能性があると予測されており、都市部で市街戦となった場合、戦闘距離が相対的に短くなると考えられていた。これにはNATOと対立する社会主義国で構成されたワルシャワ条約機構(ワルシャワパクト)加盟国の軍が、制式ライフル弾として射程距離の短い7.62mm×39短小弾を選定採用していたことも、この予測の根拠となっていた。ベトナム戦争でアメリカ軍と対峙した北ベトナムや、南ベトナムのベトナム解放戦線(ベトコン)は多くの武装をワルシャワパクト加盟国に依存しており、その戦場の状況は、近距離戦闘が展開されるという予測を裏付けるものだった。
アメリカが軍は制式ライフルと弾薬を早々と7.62mm×51口径から5.56mm×45口径に変更することができたが、すでに7.62mm×51口径のライフルを軍用ライフルとして選定配備していた他のNATO諸国は予算など関係から、すぐに切り替えることはできず、そのまま使用せざるを得なかった。
現代軍用ライフルの主流となっているアサルトライフルを誕生させたドイツも例外ではなかった。7.62mm×51弾のNATO採用決定以前にはコントロールの容易な短小弾薬でライフルを開発していたヨーロッパ各国は、最終的にアメリカの主導の7.62mm×51口径に変更させられ、西ドイツではH&Kが完成させたG3を採用していた。ヨーロッパで戦争が勃発した場合、東西をわける国境はドイツにある。したがってNATOとワルシャワパクトの対立において、最前線になるのはドイツであると想定されたが、そんな西ドイツであっても、口径変更は容易にできることではない。
ロシアが侵攻して始まった現代のウクライナにおける戦争でも明らかになったが、戦闘を継続するには、使用する弾薬の備蓄が重要になる。
軍用ライフルの変更、特に弾薬の変更は単にライフルの性能だけで判断して進められるものではない。大量の弾薬を備蓄しなければならないからだ。また新型ライフルを使用するための教育やメンテナンス体制の構築、スペア部品供給なども重要となる。口径変更は一時的であるにせよ、備蓄弾薬の減少を招き、相対的な防衛力の低下につながるリスクもある。
この状況に大きな変化をもたらしたのが1970年代から1980年代にかけての長い期間にわたるNATOの7.62mm×51弾薬に代わる新制式弾薬トライアルだった。NATOは5.56mm×45弾を採用したアメリカにすぐに追従しなかったものの、時間を掛けて新しい小口径高速弾を開発すると共に新しいライフルの開発研究をおこなったわけだ。
この長期にわたるトライアルは、ある意味で銃砲や弾薬を開発するメーカーにフリーハンドでの開発をおこなう機会を与えた。各国のメーカーは新しいアサルトライフルと、それで使用する弾薬の開発レースのスタートを切る。
西ドイツの場合、小口径高速弾を使用するライフルにとどまらず、一足飛びに金属薬莢を廃したケースレス弾薬を使用する未来型ライフルの開発採用を目指した。1969年にBundestant fur Wehrtechik und Beschaffung(連邦武器調達局)はケースレス弾とそれを使うケースレスライフルの開発を指示している。
1980年にNATOの標準弾薬として5.56mm×45が採用されると、各国は第二世代アサルトライフルを採用した。唯一、西ドイツのみが5.56mmではなく、ケースレスライフルG11の採用に向けて研究を進めた。しかし、結果としてドイツ軍による採用には至らず、G11の開発計画は1993年に放棄されている。写真は1987年の試作型。
口径:4.73mm×33(DM11)
全長:750mm
銃身長:540mm
重量:4,100g
マガジン装弾数:50発
作動方式:ガスオペレーション
弾薬の開発はドイツの総合化学メーカーのディナミット ノーベル(Dynamit Nobel:ダイナマイト ノーベル)が中心になって進められた。そしてこのケースレス弾薬を使用するライフルの開発に、H&K, Mauser(マウザー)、 Diehl(ディール)の3社が名乗りをあげた。
その背景には、現代戦における弾薬使用量の飛躍的に増大があった。そのため、将来的に薬莢を製造する原料である銅や亜鉛が枯渇し、供給が困難になることが予想されていたのだ。この資源枯渇に対応させるためと、弾薬の軽量化を目的として、ケースレス弾とそれを使用するケースレスライフルの開発が進められていった。
研究開発が進む中、マウザーとディールは途中で開発を断念、唯一H&Kのみが粘り強くこれを継続し、G11という型式名を取得、1977年におこなわれたNATO新型弾薬、新型ライフルトライアルに試作G11を提出している。しかし、そこで起こったことは、50発も撃たない内に、加熱されたチェンバーに次弾を装填した瞬間に自然発火し、暴発してしまうコックオフ現象だった。これによりNATOはケースレス弾を次期NATO弾として採用することへの興味を失った。
G11採用断念
それでもH&Kとディナミット ノーベルは研究開発を継続、それから10年以上の時間を掛けてG11を完成域にまで近づけた。改良型G11は、ドイツだけでなくアメリカでもテストが実施されている。しかし、この未来志向のライフルはドイツ連邦軍で採用される一歩手前まで進んだものの、結果的に採用には至らなかった。
その主な理由は二つある。薬莢のない弾薬を使用するため、ライフルの内部の構造が極めて複雑だったこと。そしてもう一つの理由は、弾薬自体に安定性が欠けていたことだった。
薬莢を無くしたことで、発射の際に発射ガスが漏れないようにチェンバーをシールする必要が生じ、この事からライフルの構造が複雑化した。その構造の複雑さは想像を絶するほどだ。併せてコックオフ現象を完全に抑え込むことはやはり難しかった。できたのはフルオートマチックによる連射100発までだ。それ以上の連続射撃をおこなうとコックオフが発生する可能性が高まる。加えてケースレス弾の単価が通常弾薬に比べてはるかに高価なことも問題とされた。
資源の問題については、すでに部分的な解決が見られている。もちろん現在も真鍮製の薬莢が弾薬では最も適していることは変わらない。だが第二次世界大戦中既に、ドイツでは鉄製の薬莢が一般化していた。戦後には鉄合金の技術急速に発展し、現在ではさらに薬莢製作により適した鉄合金が供給されるようになっている。また旧ワルシャワパクト加盟諸国や中国では、鉄製の薬莢が普及して広く使用されている。鉄資源も有限だが、銅や亜鉛に比べれば地球上にはるかに潤沢に存在している。
現在ケースレス弾薬以外の弾薬の軽量化のアプローチとして、一部に金属を組み合わせたポリマー樹脂製の薬莢が複数研究されており、その一部は市販されている。この金属とポリマー樹脂を組み合わせた弾薬は軽量化できるだけでなく、コックオフの防止にも役立ち、かつ製造コストも低く抑えられて、ケースレス弾薬よりはるかに現実的だ。したがって、今後ケースレス弾薬の開発が再開される可能性は限りなく低い。
話をG11がほぼ完成した時代に戻そう。1980年代後半、ソ連を含む東側社会主義国は崩壊していき、冷戦は終結、1990年には東ドイツが西ドイツに吸収される形でドイツは再統一を果たした。この世界情勢の変化は、ドイツの軍事予算にも大きく影響した。ドイツ軍としてはG11の性能がどうであれ、高価なG11と同じく高価なケースレス弾を採用するわけにはいかなくなった。結果的に1992年にドイツ軍はG11の採用は無いことを明言、これを受けてG11開発計画は1993年に終了した。
これはH&Kにとって大きな誤算だった。絶対の自信を持ってケースレス弾薬を使用するG11の開発を進めていたため、従来型の小口径弾薬に対応する新世代ライフルを開発していなかったのだ。すでにNATO加盟国はすべて、新しい5.56mm×45のSS109を使用する新型ライフルを採用配備しており、ドイツだけが取り残された状態だった。そんなドイツは、新しい5.56mmのライフルを必要としている。
H&KはG3の開発やその生産を通じて反動利用式のオートマチックライフルに関する多くのノウハウを蓄積していた。しかしながら、反動利用式、中でもH&Kが得意とするハーフローラーロッキング方式(ローラーディレイドブローバック)は、NATOが新制式弾薬として採用した5.56mm×45(SS109)弾などの小口径高速弾には不向きな作動形式とされていた。H&KはHK33など、ローラーディレイドブローバックの5.56mmライフルも製品化していたが、それは警察用といったレベルの製品で、過酷な環境で使用することが想定される軍用としては信頼性が低いのだ。


