2026/01/06
自衛隊新拳銃候補だった Beretta APX

Gun Professionals 2021年1月号に掲載
2016年の米軍MHSコンペティションにベレッタはAPXで挑んだ。しかし、選ばれたのはSIG SAUER P320だった。2019年に行なわれた自衛隊新拳銃トライアルにもAPXは候補のひとつになったが、自衛隊が選んだのはHK SFP9だった。ベレッタはここでも採用を勝ち取ることはできず敗退している。ではAPXはP320やSFP9に劣っている製品なのだろうか。
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2019年12月、日本の防衛省は自衛隊の新型アサルトライフル、および新型サイドアームとして、20式、およびH&K SFP9の採用を決定し、これを公式に発表した。自衛隊はどのようなパラメーターの元、このトライアルを実施したのかはわからない。その詳細が公開されることはないだろうが、米軍のそれに準じたプロセスでの選択ではなかったかと想像する。今回はサイドアームに焦点を絞り、20式アサルトライフルに関しては別の機会に述べたい。
まずは私見だが、現在市場にある大手メーカー最新9mmオートピストルのほとんどは、どれをも完成度が高く、軍用サイドアームとしての要求性能を一応満たしていると理解している。
自衛隊でのサイドアームトライアルだが、どんなモデルが競い合ったのか米国に住む筆者にははっきり判らない。松尾副編集長によれば、採用されたH&K SFP9の他、グロック17とベレッタAPXが候補だったということだ。これは防衛省が発表した情報によるもので、そこには米軍がM17として採用したSIG SAUER P320も含まれていたという説もあるらしいが、真偽のほどは解らない。最良の選択をしようとするなら、当然検討すべき製品だ。なにしろ同盟関係にある米軍が採用したのだから。
ベレッタAPX(Advanced Pistolの頭文字、X:口径の選択の意味)はトライアルの途中でふるい落とされたらしく、最終的にSFP9とグロックの一騎打ちになったらしい。
なぜベレッタは、自衛隊の御眼鏡に適わなかったのかを検証するというリポートはどうですか?というヒントを編集部から貰ったことで今回、ベレッタAPXのリポートとなった。本誌では数回APXのリポートが掲載されたが、すべてベレッタ本社に出向いて行なったもので、銃本体を手元において、自由にこねくり回したわけではない。
実際のトライアルを密着取材させてもらったというのであれば、なぜこの結果になったのか知り得るかもしれない。ネットという便利なツールもあるが、眉唾情報も少なくないので厄介だ。そもそも自衛隊内部のテストとなると担当者以外知り得ないことがほとんどではなかろうかと思う。
トライアルは、純粋な性能比較だけでは採用が決まるわけではない。納入価格とかもろもろのこともあるだろうし、輸入商社が絡んだ綱引きも考えられる。それは日本に限った話ではない。それでも、H&K SFP9(米国市場ではVP9)が選ばれたと聞いて筆者は少々驚いた。決して悪い選択であったという意味ではない。H&K VP9は現在、コマーシャル市場にあるミリポリ系ピストルのなかで、一番高価なモデルと認識しているからだ。そして又、市場にある最新モデルのなかで、VP9だけの・・といった飛び抜けた何かを持っているというわけでもない。もっとも自衛隊が採用するなら出血大サービスの特別価格を設定したということも考えられるが、ドイツのH&Kとなればそうも行くまい。
近年、自衛隊は米軍との共同作戦が多く、今後もこの傾向が続くに違いない、となれば自衛隊も米軍と同じSIG P320系を採用して当然かな・・といった先入観もあった。2019年夏にはP320が採用されたという噂が日本国内の一部で流れたそうだが、これは事実ではなかった。
すでに述べた通り、現在あるトップランキングのミリポリモデルに性能からみたそれ程の差はない。といっても肝心要のHK SFP9(VP9 )を所有したことがないので、筆者の語ることにも説得力がない。使ってみれば、これが一番だという何かを感じるかもしれないからだ。
まあ想像でしか書けない話はこれぐらいとして、APXに焦点を合わせたメインコースに入ろう。
正直、ベレッタAPXリポート要請にOKの返事はしたもののちょっと考えさせられた、というのが本音だ。H&K VP9もベレッタAPXも存在は知ってはいたが、グロックの亜流、またはクーロンぐらいにしか考えていなかった。以前、SHOT SHOWで実物を見たが、触った程度じゃさして意味はない。レイズガンショップはベレッタ、H&K特約店でもあり、訪ねた折にサンプルをガチャガチャいじくり回したことがあった。APXを手に取った当初、変わったセレーテッドパターンを備えたスライドには、なんとなく違和感を覚えたものだ。しかしスライドを握って前後に往復操作してみると、グリップ感も良く、その格好から来た先入観は吹き飛んだ。これが筆者のAPX第一印象だが、このクラスは他にもいろいろ所有しているので、わざわざ購入しようという気持ちは湧かなかったというのが正直な話である。3発バースト機構でもあれば惹かれたかもしれないが・・・(笑)
ベレッタオートピストルの歴史
世界最古の銃器メーカーとして約500年の歴史を持つベレッタ社については、過去のリポートで何回も語られてきた。オートピストル分野に足を踏み入れたのは他の多くのメーカーと同様、1900年初期になってからだった。ベレッタもマウザー、ワルサーとほぼ同時期にスタートしている。ベレッタオートピストルには初期のモデルから長い間、スタイルに独自性があった。バレルトップのスライド部分を大胆にカットしたあの通称ベレッタスタイルのことである。ベレッタM1915/1917/1919 口径9mm Glisenti(グリセンティ)は 第一次、第二次大戦を通じてイタリア軍のサービスピストルとして使われた。話が少々飛ぶが、1934年、ベレッタ M1934 口径9mm×17 Corto/.380ACPがイタリア軍に採用された。すなわち1934-1945年の間、イタリア陸軍サイドアーム口径には2種類あったということになる。
参考までに述べると9mmグリセンティは元々9mm×19をベースとしたもので、チェンバーの寸法から言えば互換性がある。ただし9mmグリセンティカートリッジは9mm×19よりパウダーチャージ量が少ない減装弾だ。M1915系はブローバックなので9mm×19(9mm Luger)の発射には危険が伴う。その逆、すなわちショートリコイルで作動する口径9mm×19のピストルで9mmグリセンティを撃とうものなら、力不足で作動不良となる。
戦後、再建されたイタリア陸軍はM1934系を引続きサイドアームとして使用、1951年になってベレッタ開発の新型M1951“Brigadier”(ブリガディア) 9mm×19(9mm Luger)と更新された。まあ一応、そういうことになっているのだが、M1934系、M1951共に、1978年に採用された92S-1の不足分を補う形で1991年まで使われたという話だ。しかしこの話には少々疑問が残る。
M1951と92系の外見には類似性が見られる。M1951はSAオート、92系はSA/DAでしかもセイフティ機能向上を図った進化モデルだ。1978年、92系の改良モデルである92S-1はイタリア陸軍 サイドアームとして採用されたが、これまで使用されてきた旧モデルとの全面更新とはしなかった。
92の発展改良型である92SB-F(のちに92Fとなる)は1980年代に実施された米軍サイドアームトライアルでSIGP226とともに最終選考に残り、1985年に米軍サービスピストルM9として採用された。その後、SIGP320M17と更新されるまでの約30年間、M9は米軍制式サイドアームの座にあった。途中、92Fは92FSに改良され、M9も92FS仕様に切り替わった。米軍サイドアームモデルはM9だけではなく、他メーカー製も何種類か採用された。これは92自体に時代の要求に追従すべく拡張性が備わっていなかったことが一つの理由だった。イタリア軍は1990年代、92FSを追加採用している。
作動方式から見た場合、M1915/M1919/M1934はいずれもシンプルブローバックを採用していた。第二次大戦後に開発されたM1951は、口径9mm×19ということもありショートリコイルを採用、しかし当時既に多くのメーカーが採用していたブラウニングタイプではなく、P-38系のプロップアップを採用した。92系もそれを踏襲している。
プロップアップには当時、それなりのメリットもあったのだが9mm×19以外の他口径での使用や、銃全体のコンパクト化にはデザイン上、無理が出てきた。それもあってベレッタ社は新たなショートリコイル方式を模索、その結果、1994年、8000(Cougar:クーガー)シリーズを生み、2004年には、ポリマーフレームのPx4 Storm(ストーム)に進化させた。いずれもロテイテイングバレルロックによるショートリコイルを採用したモデルだった。誰もがブラウニングタイプのティルトバレルロックに傾く時世、古くて新しいアイデアであるロテイテイングバレルロックを更に改良、口径も9mm×19だけでなく.45ACPと選択可能となり、しかも使用目的にあわせたC(SA)、D(DAO)、F(SA/DA /デコッキング/マニュアルセイフティ)、G(SA/DA /デコッキング)などを揃えた。そしてまたミニクーガーを登場させるなど、Px4は多目的性を備えたモデルで現在も製造継続中、コマーシャル/法執行機関市場でもそれなりの成功を収めている。


