2025/12/01
【NEW】SIG SAUER P320の軌跡 SIG PROからP320まで

SIG SAUERがP320を発表したのは2014年1月のことだ。もうすぐ12年が経過する。このP320が誕生するまでの経緯と、それから起こったことを今、改めて振り返ってみたい。この銃の歴史は、かなり波乱万丈なのだ。
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この記事はArms Magazine 2026年1月号掲載の“All About P320 Part 1”の記事に一部加筆したものです。
SIG SAUERのポリマーフレームピストル
世界の銃器市場で、SIG SAUERのポジションは確固たるものとなっている。同社は、ハンドガン、アサルトライフル、バトルライフル、ボルトアクションライフル、マシンガン、ピストルキャリバーカービン、サブマシンガン、エアガン、エアソフトガン、オプティックス、サウンドサプレッサー、弾薬など、幅広い分野に製品を供給している総合銃器メーカーだ。もちろんそれらすべてを自社製造しているわけではなく、他社からOEM供給を受けているものも一部あるが、その多様さは他のメーカーを圧倒している。
同社が大きく飛躍するキッカケとなったのは1985年に決着したアメリカ軍のサービスピストルを選定するXM9トライアルで、SIG SAUER P226が最終候補にまで登り詰めたことだろう。長期に及ぶ選定トライアルの中、ずっとトップを走り続けていたベレッタ92SB-Fに対し、これが決着する1年前に遅れて参戦したP226は、一気にベレッタに追い付き、ギリギリまで追い詰めた。そんなP226の実力は誰もが認めるものであった。
M9としてアメリカ全軍に採用されることは無かったものの、プロフェッショナルが選ぶ銃としてP226は広く認識されていった。P226のコンパクト版であるP228がM11としてアメリカ軍に限定採用されたことをはじめ、P226のバリエーションはFBIを筆頭に多くの公的機関に採用されていく。
SIG SAUERを代表する傑作P226、その進化型のひとつが、2010年8月に発売されたこのP226エンハンスドエリートだ。
P226をロングビーバーテイル化させ、グリップをE2(E Square)タイプに変更、スライドのデザインも少し変えている。
P226は素晴らしいメタルフレームピストルだが、P320のような発展性はない。
その高い評価を足掛かりに、ライフルなどの分野にその守備範囲を本格的に広げていくのは、2000年にSIG SAUERの経営母体が変わってからの事だ。しかし、話を広げ過ぎると収集が付かなくなるので、ここではハンドガンの分野にのみ話を留めたい。
SIG SAUERとそのアメリカ法人であるSIGARMSが快進撃を始めた1985年、そこに立ち塞がるように登場してきたのが、1982年に誕生したグロックだ。1985年にアメリカ法人Glock USAを設立して正式に市場参入し、そのわずか数年後、アメリカの警察官の装備するハンドガンの約半数はグロックが占めるといわれるようになった(これについては諸説あり、半数という数字に明確な根拠はない)。当然、民間市場でもグロックのシェアは大きく、同時期にアメリカ法人SIGARMSを設立したSIG SAUERにとって、グロックの存在は事業規模拡大を阻害する大きな要因であっただろう。
それは他の銃器メーカーも同様だ。そこで80年代の終わり頃から90年代に、各社はグロックの特徴を取り入れた製品を市場投入していく。いわゆるポリマーフレームの採用だ。
SIG SAUERが最初のポリマーフレームピストルを市場に投入したのは1998年とかなり遅かった。その理由については、SIG SAUERがビジネスの上で善戦していたからだといえる。メタルフレームのP226、P228、229は、グロック旋風が吹き荒れる中でもかなり人気があり、慌ててポリマーフレーム市場に参入しなくても良かったというわけだ。
同じことはベレッタにも言える。XM9トライアルで最後まで残ったこの2社は、ポリマーフレームでなくても、高い人気を維持できていた。そのため、ベレッタもポリマーフレーム市場に参入したのは遅く、2000年になってやっと9000シリーズを発表している。
SIG SAUERが1998年に市場投入したSIG Proと称するSP2340, およびSP2009は、メタルフレームのP226、228、229をポリマーフレームに置き換えることでコストダウンを図った製品だった。
SIG SAUERに限らず、当時各社が投入したポリマーフレームピストルは概ね、同じような製品で、DA/SAトリガーシステムのハンマーファイアードでデコッキングレバーを装備したもの、あるいはシンプルにダブルアクションオンリー(DAO)としたものが多かった。
これはグロックの魅力を各社が正しく理解していなかった事を示している。グロックの魅力は、ポリマーフレームの採用による軽量さと低価格であることだけではない。最大の魅力はプレコックストライカーによる撃発システムにあった。グロックのストライカーは自動的に半コッキング状態となり、シューターは射撃する際、残りの部分を引くだけで撃てる。プルがかなり軽くて短い。さらにリセットも短い。そしてこのトリガープルは常に同じだ。シングルアクションほどではないが、それに近い感覚で撃てる。さらにマニュアルセイフティも無い。操作は極めてシンプルだ。
このトリガーシステムが組み込まれておらず、単にポリマーフレームにしただけでは魅力半減となる。いや4/5減だろう。もちろん、パテントの壁もあってグロックのようなシステムにできなかったということもある。
いずれにしても、グロックに対抗しようとしたガンメーカーは、グロックのトリガーシステムの優位性を正しく理解していなかったようだ。
SIG SAUERも例外ではない。SP2340やSP2009は普通のDA/SAトリガーで、デコッキングレバーを装備するものだった。すなわちP226やP228のフレームをアルミからポリマーにしただけに過ぎない。2002年には、小改良を加えたSP2022が登場し、フランスの国家憲兵隊Gendarmerie nationale(ジャンダルムリ)は2003年にこのSP2022を採用した。またフランスの全法執行機関もそれに追従し、合計25万挺という大型受注となった。
但し、これを弾みにSIG SAUERのポリマーフレームピストルの人気に火が付くという事にはなっていない。

フランスで25万挺以上が採用されたという実績があったため、SIG SAUERのカタログ2020年版までずっと載り続けた(…たぶん)。売れないモデルはすぐにラインナップから消してしまうSIG SAUERとしてはかなり異例のことだ。
Photos by Tomonari Sakurai


