2025/08/06
ブライリーライトニング 38Super
Text &Photos by Hiro Soga
Gun Professionals 2021年9月号に掲載
ブライリー ライトニングは、1997年にカスタムガンスミスの一方の雄として名を馳せていたブライリ―が、全力で作り上げたスピードシューティング用レースガンだ。0.1秒を競うためのフルカスタムガンに付けられた名前は“イナヅマ”!
30年近く前に最先端だったレースガンは、簡単なアップデートで今でも通用する高い実力を維持している。
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Lightning Steel Master

軽い!
現代の感覚からいうと長大ともいえる5.5インチバレルを持ちながら、ライトニングの重量はマガジンなしで、951g(実測値)でしかない。今回、この稲妻をご紹介するにあたって、ほぼ同世代の、同じ.38Super口径の製品として、Steve Nastoff(スティーヴ・ナストフ)カスタムを引っ張り出してきた。このナストフは、1,253gあるので、ライトニングが300g以上軽い計算になる。何よりも重量の前後バランスが良いので、ホルスターから抜いて初弾を撃つまでの時間が大幅に短縮でき、さらに次のターゲットに向けてガンを振った際にも、軽いので急ブレーキが効き、セカンドショットを素早く撃つことができる。それに比べナストフは、思い切りフロントヘビーだ。

当時の“勝つためのメソッド”は、重くしてリコイル/マズルフリップを軽減するというものだった。その結果、ホルスターから抜く際は上下にブレるし、複数のターゲットを素早く撃とうと横に振る際には、停めるのが難しく、たいていは行き過ぎて引き戻す、という作業が必要になる。ライトニングはその対極にあるコンセプトの銃だった。

まずはライトニングのカスタマイズポイントを列挙してみよう。
- ブライリ―製チタンコンペンセイター
- スライド/フレームチューン
- フルーテッドマッチバレル+スフェリカルブッシングカスタムインストール
- エクストラロワード エジェクションポート
- カスタムフロント/リアコッキングセレーション
- アルミニウムガイドロッド+リバースプラグ
- 超軽量化スライド
- エクステンデットエジェクター
- マッチトリガー、ハンマー、シア
- ワイドサムセイフティ
- 削り出しビーバーテイルセイフティ
- ベベルドマガジンウェル
- 20LPI フロントストラップチェッカリング
- 樹脂製チェッカード メインスプリングハウジング
- トリガーチューン(約2ポンド:907g)
各部にガタ/遊びはほとんどない。一流のカスタム1911だけが持つガラスの上を滑らせるような滑らかなファンクションが実現されている。


ナストフの方もカスタマイズされている部分はよく似ている。スライドは軽量化のため0.25インチカットされ、内部のチャンネルは掘り込まれており、ストック(標準品)のスライドよりは前後するスピードが上がるよう工夫されている。


まあ、この2挺はそれぞれその用途が違うので、カスタマイズの方向が異なるというのは事実だ。ライトニングの方は、初速を落とし、弾頭重量を軽くしたライトロードでも確実にファンクションさせるために、スライドやバレルは徹底的に肉抜きされている。スライドなどは、バレル周りのウインドウだけでなく、ブリーチフェイスのすぐ後ろからざっくりと上部が削られ、おまけにエキストラクターのチャンネルまで貫通してインサートされたマガジンが上から見えてしまうほどなのだ。

イルプラグ部分も左右だけでなく、下側にも開いている
さらにバレルには7条のフルートが彫られ、重量がかさむコーンタイプではなく小型のブッシングを使用したストレートバレルが使われている。各重量をナストフと比較するためにリストしてみると。
と、スライドのみで約100g、アッパーアッセンブリで計測すると220gもの軽量化を果たしている。その分、アモの選択には敏感で、ライトロードで確実なファンクションをさせるためには、弾頭、パウダー量やリコイルスプリングのチューンなど、細かなセットアップが必要となってくる。この辺りはオーナーの技量や経験がモノをいうので、自分に合ったチューンを見つけるという、愉しい作業が待っている。

一方、ナストフは、IPSCなどパワーファクターをクリアするフルロードのアモを、いかにリコイル/マズルライズを抑え込んで確実にファンクションさせるかに重きが置かれている。
ナストフの方は一人の熟練ガンスミスが、優れた工作技術と経験に培われた知識を駆使して作り上げた作品だ。一方、ライトニングは最新の知識を持ったマシニストが、CNCマシンを駆使して作り上げている。
ライトニングの先進性の一つに、このモデルに使われている“Spherical Bushing”(スフェリカルブッシング)というものがある。1911のブッシングチューンというのは、それこそ職人技の最たるものだ。ショートリコイルシステムの要でもあるバレル/スライドのロックをクリアするために、バレルがリンクを介してティルトする際、スライドの先端でバレルを支えながら確実に元の位置関係に戻すという、大事な役割を担っているのがブッシングだ。通常のカスタムガンでは、このブッシングの内側に絶妙なテーパーを掛けて、斜めに移動するバレルを正確に元位置に戻すべく、ガンスミスが持っている力を投入する。

それをブライリーのスフェリカルブッシングは、可動するパーツの工作精度によって、高い命中精度を獲得しようというものだ。スフェリカル(sphericalとは“球状の”という意味で、ブッシング内に一定方向にのみ可動するリングが仕込んである。ショートリコイル後にバレルが不自由なくティルトするのをサポートするだけでなく、精度を上げるために、毎回同じ場所にバレルを戻すという重要な役割を担っている。このリングはカーボンスティール製で、チタンナイトライド表面処理が施してあり、表面硬度を上げることによって滑らかに作動するようデザインされているのだ。
リングの内径とバレルの外径差は0.001インチと謳われており、精度の向上に貢献している。このスフェリカルブッシングの効能は賛否両論だが、私の所有するS&W PC945とこのライトニングは、どちらもオイルを切らさない限り抜群の精度を発揮してくれることから、その効果は実証済みだ。

時代を感じさせない、端正かつ美しいデザインだ。スライドトップのセレーションやサイドの細いラインなど、繊細な手作り感が漂う。



驚いてしまうのは、この現在でも通用するパフォーマンスを持つレースガンが、24年前(2021年の24年目)にすでに存在していたという事実だ。個人的には、バレルをあと0.5インチ短くしてもっと小型のチタン製コンプを装着し、口径を9mmとすれば、これは理想のスティールガンとなると考えている。そう、当時最先端だった38Super口径は、実は手の掛かる問題児なのだ。