2025/08/04
ハドソン Vz61スコーピオン【Vintage Model-gun Collection No.16】
Vintage Model-gun Collection -No.16-
HUDSON
Vz61 SKORPION
(1981年)
Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2013年7月号に掲載
発売当時、Vz61スコーピオンのことを知る人はほとんどいなかった。たまにヨーロッパ映画でちらりと登場するくらい。雑誌で取り上げられることもなく、共産圏の銃であったため、ほぼ幻の銃だった。いきなりハドソンから発売されたときは誰もが驚き、珍銃、小型SMG、共産圏の銃などのファンは多いに喜んだ。スコーピオンは極めてハドソンらしいモデルガンとして記憶されている。


諸元
メーカー:ハドソン産業
名称:Vz61スコーピオン
主材質:亜鉛合金
撃発機構:オープンボルト、セミ/フルオート
作動方式:ピストンファイア方式ブローバック
使用火薬:平玉紙火薬または5mmキャップ
カートリッジ:ピストンファイアカートリッジ
全長:275mm(ストック折り曲げ時)、525mm(ストック伸長時)
重量:1.46kg(空マガジン装着時)
口径:7.65mm(.32ACP)
装弾数:20発
発売年:1981(昭和56)年
発売当時価格:¥20,000-
(カートリッジ6発付き、めっき仕様となってから¥18,000-に値下げ)
※smGモデルなので所持・売買ともに可、法規制対象外品。(2025年現在)
※1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて、規制の対象となることがあります。合法的に所持するには、クリアーイエロー等を吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。
ハドソン産業のVz61スコーピオンは、1980(昭和55)年の11月末売りの専門誌広告に「次期発売予定Vz61 SKORPION」と文字だけで表記され、翌月には実銃の写真入りで掲載されると、3カ月後にはもう20,000円で発売されていた。年末に間に合ったかどうかは不明だが、正月商戦には間に合ったはずだ。それで、この原稿では発売年を1981年とした。
当時はメーカー発表よりショップの情報の方が早く、ショップの広告に「近日発売Vz61スコーピオン」などと載った。メーカー名が入っていないことが多かったが、これはメーカーがショップに対して(あるいはディーラーに対して)早めに、次はこれを発売するから仕入れをよろしくということで、リリースしたからだろう。守秘義務的な縛りはなく、ショップでも早めに注文を得るため広告に載せたのだろう。たぶんショップ内にもメモ的なものを貼り出していたのではないだろうか。
それにしてもスピード発表、スピード発売で、ほとんどのファンはついていけないほどだった。なにしろ実銃のことをよく知らない。
それでも、知っている人はどこかにいるもので、当時の「大阪ガンルーム」というショップの発売前広告には「メスリーヌが愛用」と表記されている。
このメスリーヌは、映画にもなったフランスのギャング、ジャック・メスリーヌのこと。「社会(民衆)の敵No.1」と呼ばれ、1960年代から犯罪を繰り返し、1979年に警察官に射殺されるまでフランスを震撼させた。この事件は日本の新聞でも報道されたので、一部の大人はメスリーヌがVz61スコーピオンを使っていたことを知っていたらしい。
ちなみに、ヴァンサン・カッセル主演の映画がパート1とパート2の2部構成で2008年に作られ、2010年にワーナー・ホーム・ビデオからDVDが発売されている。タイトルは「ジャック・メスリーヌ/PUBLIC ENEMY NO.1」だ。興味のある人はぜひ見ていただきたい。



さて、話をもどすと、ハドソンのVz61スコーピオンは、設計者である御子柴一郎さんからの提案だったという。
もともと御子柴さんは「小さなフルオート」(小型サブマシンガン)が好きで、Vz61スコーピオンなら資料が少ないし、共産圏の銃でマイナーだから他社が作らないだろうということで、提案したのだそうだ。ハドソンの社長はすぐにOKを出してくれたらしい。
この当時を振り返ってみると、1980年のゴールデンウィーク恒例のモデルガン・ショーで、MGCはニューモデル5の1つに小型サブマシンガン、プラスチック製イングラムM11を発表し、年末ギリギリに発売し、大ヒットとなっていた。
小型サブマシンガン好きの御子柴さんとしては、デザイナー魂が多いに刺激されたとしても不思議ではない。それで、あえてマイナーなVz61スコーピオンを選んだのだろう。ミニウージーもマイクロウージーもまだ実銃は登場していない。
ただ、資料がない。雑誌で取り上げられたことはほとんどなく、かろうじてアメリカの専門書で取り上げられていたくらい。左右面もあまり鮮明ではない写真しかなかったという。だからフロントサイトのサイドガードが外巻になっていることはわからなかったし、トリガーの前にあるボルトキャッチが左寄りに位置していることもわからなかったそうだ。ハドソンがモデルガン化して初めて、日本の雑誌でも実銃の写真が載るようになり、詳細が明らかになっていった。





当時、快調なブローバック・モデルといえば、MGCのデトネーター方式と、マルシンのPFC方式しかなかった。そして、1979年にはキャップ火薬が発売され、徐々に平玉紙火薬を駆逐し始めていた。
御子柴さんは、六人部登さんのようなリアル派ではなく、どちらかといえば小林太三さんのような模型・玩具派だという。そこで、安価で撃って遊べるモデルガンとしてVz61スコーピオンを設計した。
もちろん、資料とした書籍に断面図もあったので、M1ガーランドやAKのハンマーに似た撃発方式や、グリップ内に収納された発射速度を抑えるレイトリデューサー(リターダーシステム)があることはわかっていたという。しかし、あえてオープンボルトにし、引き落とし式トリガーメカニズムで単純化。モデルガンでは必要のないレイトリデューサーは省略することにした。
そして、キャップ火薬にも対応したハドソンで初めて閉鎖系のブローバック・システムとして、ピストンファイア方式が採用された。
当初はパッキンを使わない方式だったが、キャップ火薬が主流になるに従いピストンの前撃針部を長くして、専用パッキンを使うようになり、さらに進化してOリングを使うようになった。これはさらに研究すればCP方式と似たような形になりそうだったが、時代はエアーソフトガンへと移って行き、実現することはなかった。
当初、ハドソンは広告などでVz61 SKORPIONと表記していたが、専門誌でアメリカからのリポートが掲載されるようになると、英語式にSCORPIONと表記するようになった。
1990年代になってハドソンのVz61スコーピオンはMGCのCP方式を採用した。作動性能はどうだったのだろうか。気になるところだ。初期のピストンファイアは5mmキャップに平玉1粒を追加すると、3連射くらいは快調に動いた。








今になって考えてみると、小型サブマシンガンではボルトのストロークが短く、バッファーが付けられていてもボルトがはじき返されて発射速度が上がっていたのではないだろうか。それに対してマガジンの固定は甘く、イチローさんが後に雑誌で紹介したトリガーガードにサポートハンドの親指を入れてマガジンをはさむようにする持ち方をするとジャムが発生しやすかったようだ。マガジンの固定をタイトにして、レイトリデューサーを再現していたら、もっと快調な連射が実現していたかもしれない。ただ、オープンボルトとはなじまない可能性はあるが。
御子柴さんによると、もっとも設計がむずかしかったのはマガジンだそうだ。カーブが付いたバナナマガジンのため、ストレートのカートリッジだとMGCのスターリングのようにしないと収納できない。そこでわずかにテーパーの付いたカートリッジを採用することにしたが、モデルガンでの作動はテーパーが付いているとダブルフィードのフルオートは安定しないらしい。ストレートの方がたやすいのだとか。何度もフィーディング・ランプの形を修正したという。
ハドソンのVz61スコーピオンはレアな銃ということで注目されたが、発売後6カ月ほどして警察より「サブマシンガンというよりピストルと見るべき」という見解が出され、銃口の閉鎖と金めっきが施されることになった。それに合わせて、ハドソンはコスト・アップになっただろうに、価格を18,000円に値下げした。
最終的には「ピストルではなくサブマジンガン」という判断がなされ、再び銃口を開け黒色にもどされた。今となってはめっきモデルの方が貴重品かもしれない。
5年ほど前、CP方式のものと平行して、なぜか発売当時のピストン・ファイア仕様で限定生産された。
とかく批判されがちな第1号だが、第1号がなければ次はない。その意味で、ハドソンのVz61スコーピオンはまさに開拓者だった。







CMCトンプソンM1の追加情報
読者の方から、1984年末ころ買ったCMCトンプソンもフロントサイトはピン留めで、30連マガジンは緑クロメート仕上げで、CMCの刻印だったとお知らせを編集部にいただきました。
また福島の佐藤さんからは「1988年頃GUN誌CMCの広告にトンプソン用のPFC別売の宣伝※が掲載されていたと記憶しております。小遣いをはたいて、別売の専用のデトネーターとカートリッジ10発を取り寄せました(カートリッジが一発400円、デトネーターが2千円位と記憶しております)。1996年頃にもう一度、トンプソンで遊んでみたくなりカートリッジを注文したところ、CMCから届いたのは、インナーの形状がPFCとは全く違う複雑なものでした(タナカのパラカートのようなインナーだったと記憶しております)。PFCのデトネーターでは使えないと分かり、そのカートリッジは返品してしまいました。以上のことから、トンプソンのカートリッジは、メーカー純正で3タイプのカートリッジが存在したと確認できます。また、私が1996年頃別売で購入した30連マガジンは、掲載されているセイモア社の刻印のものでした」というお知らせをいただきました。
皆様、情報提供をいただき、ありがとうございました。
※ くろがね注:現時点(2013年)で1986〜1990年のCMC広告において確認ができていません。
参考文献:
・コンバット・マガジン1981年6月号 「モデルガンテストリポート」くろがね ゆう/ワールド・フォト・プレス ・Gun1981年11月号 「モデルガンダイジェスト」/ジャック天野/国際出版 ・CZECHPOINT http://www.czechpoint-usa.com/ |
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:御子柴一郎
撮影協力:くま、大出康博
Gun Professionals 2013年7月号に掲載
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