
Photo & Caption:Akira
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
P38は第二次大戦中に生産されたモデルに人気が集中し、戦後に生産された軽量化モデルはそれほど注目されることがない。両者の違いは単にフレームの材質だけなのか、1943年生産のスプリーベルク製と1974年生産の警察納入モデルと比較し、その相違点を確認する。
上は1974年製、下はスプリーベルグ製で1943年10月頃に製造したモデル
1938年の採用から終戦が訪れるまでの間、ライセンス製造も含め大量のP38が製造され戦線に投入された。終戦後、しばらく製造は行われなかったが1957年にP1が採用されて製造再開。いわゆるポストウォー(戦後)モデルのP38であるP1は、基本構造はそのままで細部を若干改良している。最大の相違点といえば、フレーム素材をスチールからアルミ合金へと変更、軽量化していることだ。P1やショートバレルのP4は国内の警察でも長年使用された後、サープラス品が大量に輸出された。
構造が複雑で量産しにくかったと語られるルガーP08の問題を解決するため、後継機として誕生したのがP38であった。写真のP08は見て判るとおりオリジナルではなくアメリカのミッチェル・アームズでコピーされたアメリカン・イーグルP-08で、ステンレス素材で独特な構造を持つトグル・アクションを再現している。
構分解してトグル・アクションの構成パーツを見せたところ。尺取虫のように動く独特な作動方式はメカが好きな人にはたまらないデザインだ。
スプリーベルグ製モデルはPeko氏(http://www.pekosgunbox.net)からお借りしたもの。スライド右側面のモデル名の後ろにcyqの製造コードが刻印されている。スライドを引くとヌメーとした滑らかなフィーリングが味わえる。対するP1ではシャキシャキっとした現代銃的な感触だ。
スライドを引いたところがメカメカっぽくてもの凄くカッコいい。P38はデザインにおいて数あるハンドガンの中でも最上級の美しさを誇ると筆者は勝手に思っている。
戦時中モデルのスライド前方側面にはP.38という大きな刻印がある。対する戦後モデルではワルサーの社名の脇に控えめにスランプされている。この戦後モデルは内容的には軍用のP1であるが警察用に製造・支給されたものらしくP38と刻印されている。実は保存状態の良好なP38刻印のP1を数年探し続けて今回のモデルを発見。刻印されている以上、このP1もP38と紹介するのが正確だが混同させてしまうので誌面ではP1と表現することにした。
戦時中モデルではバレルの付け根にスライド、フレームと同じ番号が刻まれている。3855hの刻印から1943年の10月頃に製造されたことが判る。P1では口径が表記されている。
左:安全にハンマーを落とせるデコッキング・レバー(兼セフティ・レバー)、チェンバー装填時にスライド後部にピンが突き出し装填状態を知らせるインジケーターを備える。P38はこの時代ではとても先進的なデザインであった。
右:マガジン・リリースは昔のヨーロッパ定番のスタイルでグリップの底に備わっている。挿入口は僅かながら広げられているので、マガジンの挿入は容易だ。
P38の素晴らしい点として挙げられるのが握りやすいグリップのデザイン。グリップ・パネルについてはリサーチを重ねたPeko氏から色々と話を伺った。一般的にはスプリーベルグ製P38にはもっと明るい茶色のグリップが装着されているイメージがあり、最初はこのモデルのグリップも交換されてしまったという印象があったが実際にはオリジナルの可能性が高いという結論だった。通常グリップ・スクリューの穴に差し掛かる部分の溝が途中で途切れてしまっており、その部分の溝の数がワルサーとマウザー製では5本、スプリーベルグ製では6本という見解がなされるが、実際には各メーカーは4社の下請け会社にグリップを製造させており、その銃の製造時期によっては一概に判断できないという。ワルサー(といっても下請けが製造している可能性もあるが)、AEG社、ユリウス・ポゼルト社(スプリーベルグ製P38の大半はこの会社のグリップとされている)、ドゥロフォル社の4つのブランドがあり、AGE社が最も製造数が多く、どこのP38にも使用されていており過渡期のモデルは当然存在していると推測される。今回のモデルもAGE社の特徴(途切れ部分の溝が6本で裏側にP1528とP1529の刻印がある)と合致する。スプリーベルグ社の最初の2万挺にはAGE社製グリップが使用され、1943年末頃からユリウス・ポゼルト社製に切り替わったという資料があるので同年10月製造のこのモデルにAGE社製グリップが使用されていてもおかしくはない。P1では溝からチェッカリングに変更されて滑り止め効果が増した。
外見上P38とP1は瓜二つだがP1ではスライドの肉厚が増して、段がついているのが特徴だ。重さを量ってみるとP38のスライドは269gであり、P1のスライドは294gと25g重かった。
P38のプロップアップ・タイプのショートリコイルはワルサーも70年代に発売したP5までしか採用せず、P88では他社と足並みを揃えてブローニング・タイプを改良したものに置き換えてしまった。ではこの方式はトグル・アクションのように時代遅れで過去のものなのか? と言われるとそうではない。米軍を代表とする世界の軍隊や警察でいまだ活躍中のベレッタM92FS(写真はM9の市販版)も同方式だ。弱点も指摘されるがベレッタが現役であり続ける限りは、歴史に埋もれて消え去った作動方式とはいえない。
左がP38、中央がP1、右がベレッタ。リコイルスプリングの配置が異なるのでスライドの裏側から比較すると印象がかなり異なる。
P38(左)とP1(右)のフレームを比較する。素材が違うが設計はほぼそのままだ。P1のアルミ合金フレームは240gと軽量だがスチール製フレームでは425gとかなり重い。今回のP38刻印のP1は初期のモデルなのでフレームに補強用のネジ(ヘックスボルト)が埋め込まれていない。何発撃ったかものか知らないがバレルと接触する内側がかなりはげてきている。
マガジンの比較。向かって左がP1のものでP38のもの(中央と右)とは互換性がある。P1付属のマガジンは80g、P38のものは77gと僅かな重量差がある。中央のものにはワルサー製を示すacと刻印されている。
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
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