2025/06/09
MGC M16E1 ASSAULT RIFLE【ビンテージモデルガンコレクション 9】
Vintage Model-gun Collection -No.9-
MGC
M16E1 ASSAULT RIFLE
(1973年)
Text & Photos by くろがね ゆう
Gun Professionals 2012年12月号に掲載
1973年の発売当時、M16ライフルのことを詳しく知る人は少なかった。ベトナム戦争を伝えるニュース映像などでは目にすることがあったものの、同じアメリカ軍でも陸軍と空軍で仕様が違うことを指摘できる人はほとんどいなかった。多くの人はMGCとマルシンのモデルガンでM16の事を知った。新しもの好きにはたまらないモデルガンだった。



諸元
メーカー: MGC
名称: M16E1アサルトライフル(U.S. ARMY-VIETNAM TYPE)
材質:亜鉛合金、ABS樹脂(ストック、グリップ)
撃発機構:クローズドボルト(ロックドフローティングブリーチタイプ)、セミ/フル切替式、ストライカー
作動方式:デトネーター方式ブローバック
使用火薬:平玉紙火薬6〜7粒
カートリッジ:オープン・タイプ(9.5×40)
全長: 980mm
口径:.223(5.56mm)
重量: 2,800g
装弾数: 20発ボックス・マガジン
発売年: 1973(昭和48)年
発売当時価格:\16,500(半年後くらいにM16A1タイプも発売)、後に手動式のスタンダードタイプも発売
オプション:カートリッジ1箱20発 \1,200、30連マガジン \2,500、スリング \1,000、M16A1/E1ハンドガード各\1,400、 M16A1/E1ハンドガードキャップ各 \200、M16スナイプスコープ(2.5倍、マウント付き)\3,500
※smG規格以前の模擬銃器(金属製モデルガン)は売買禁止。違反すると1年以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。(2025年現在)
※1971年の第一次モデルガン法規制(改正銃刀法)以降に販売されためっきモデルガンであっても、経年変化等によって金色が大幅に取れたものは銀色と判断されて規制の対象となることがあります。その場合はクリアー・イエローを吹きつけるなどの処置が必要です。
※全長や重量のデータはメーカー発表によるもので、実測値ではではありません。また価格は発売当時のものです。
M16のモデルガンはインターナショナルガンショップ(のちの国際産業)の、1972年3月の専門誌の発売予告広告によって始まった。この時MGCでも設計が進行中で、担当していた小林太三さんは、その広告を見て「悔しい!! 絶対に同じモデルは作りたくない!」と思ったという。
ちょうどその頃、MGCと取り引きがあり資料提供してくれていたアメリカのRMI(のちのコレクターズ・アーモリー)のトーマス・B・ネルソン社長から、こういう新型のM16があるから、これを作ったらどうだという提案があったそうだ。
それが、アメリカ陸軍に制式採用されていたM16A1の仕様で、のちにM16A2で採用されることになるグレネード・ランチャーを簡単に装着可能な上下分割式の円筒型ハンドガードを装備したモデル。
そこで名称を、M16からM16A1になるときにテストに使われたXM16E1から取って、M16E1として発売することにした。ちなみに浦和の製造部が担当した本体、箱、パーツ表の表記はM16E1で、東京の広告部が担当した広告、カタログ等の表記はM-16E1だった。
2025年5月 GP Web Editor追記:
発売当時、MGCはM16の最新型がこの丸型ハンドガード付きのM16E1だとして宣伝していました。しかし、実際にはあくまでも試作モデルであり、三角ハンドガードのA1を製品化しなかったのはあまり適切な選択では無かったと思います。しかし、実銃の世界では1983年にM16A2が登場、若干仕様が違うものの丸型ハンドガードが採用されました。MGCは期せずして10年後を先取りしたことになったのです。
MGCのモデルはもちろん特許のデトネーター方式ブローバックモデル。量産モデルガン史上初のクローズドボルトによる、セミ/フル切替式。
正直なところ、ボクは当時クローズドボルトという点にはまったく惹かれなかった。現用のアメリカ軍のライフルが、セミ/フルのブローバックで撃て、しかも「後ろへの反動」を楽しむことができるという点にのみ注目していた。





実際には、ここが重要ポイントだった。オープンボルトはカートリッジをチャンバーに送り込むと同時に発火させる。これはある意味、暴発(スラムファイア)だ。そしてオープンなデトネーター方式はその暴発が起きやすいような構造となっている。
ところがクローズドボルトではそれができない。暴発させてはいけないのだ。軽くて慣性の小さなボルト(ブリーチ)を使い、発火寸前の位置でボルトの前進を停めてやる必要があった。その機構が「ロックド フローティングブリーチ」だった。カートリッジの前進を5mmほど手前でロックする。トリガーを引くとまずロックが下がり、ボルトをフリーにしてからハンマーが落ちる。
これにより初めて、ファイアリングピンを使わないクローズドボルトで快調なセミ/フル切替式ブローバックが可能になった。それでもハンドガン同様、初弾の装填には気を使ったが。
ただ、セミオートではフルオートより1粒多く火薬を詰めた方が快調で、その設定でフルオートを撃つとボルトが後退し過ぎてレシーバー内のレールから外れ、ボルトが止まってしまうことがあった。これは後にレシーバー内のレールを延長することで解決されるが、もともとはボルトの後部に取り付けるはずだったバッファースプリングが、パーツ表では描かれているのに、量産品では入っていなかった。そのためボルトが後退し過ぎることがあったのだ。
実は出荷直前に、軽いボルトの場合、バッファースプリングがあると下がったボルトが勢い良く押しもどされ、ジャムや暴発の原因になると判明したのだそうだ。そこで、規定内の火薬量なら問題ないということで、取り除くことになったという。
広告では大きくフィーチャーされた「後ろへの反動」。ボクはてっきり、そのために実銃とは全く違うストライカー方式にしたのだと思っていた。ところが今回、小林さんにお話を伺ったところ、それが間違っていたことがわかった。安全対策上からの機構だったそうだ。






当時は1971年に施行された第一次モデルガン法規制直後で、警察当局もメーカーも改造事件に非常に敏感になっていた。MGCのM16E1はバレルが細いこともあり、デトネーターの掃除をするためにはバレルを分解式にした方が良い。しかしそうすると改造しようとする不徳の輩が現れないとも限らない。そこで実銃同様のハンマー式は避けることになったという。
小林さんはモスバーグの.22口径オートローディングライフルの機構をヒントに、大きなストライカー(円筒形ハンマー)を使う方式を考え出した。どうやら後ろへの反動は副次的なものだったようで、広告でそれをメインの売りにしたため、安全対策の方の印象が薄れたらしい。
さらに、構造を単純化してパーツ点数を減らし単価を下げるため、MGCお得意の引き落とし式トリガーによるセミ/フル切替機構とした。その結果、セレクターの順番が、実銃では時計回りにセーフ、セミ、オートとなっているものが、セミ、セーフ、オートとなってしまった。
しかしそのおかげで、マルシンのM16が国産ストック付きで19,500円だったのに対して、MGCは16,500円とかなり割安。しかも当時は発火全盛時代。ブローバック性能は比べるまでもなかった。撃って遊ぶならMGCだった。
発売されると、三角断面の「おむすび型」ハンドガードのA1モデルが欲しいという声が多く寄せられ、1年を経ずしてM16A1が発売されることになった。ただ、メインフレーム(ロアレシーバー)の刻印はすべて浮き彫りだったため、A1モデルが発売された後もしばらくは「M16E1 ASSAULT RIFLE」のままだった。後期には金型が修正され「M16 ASSAULT RIFLE」となったが、それまでは、A1もショーティのコマンドサブマシンガン(CAR-15[コルトM609]がモデルだったことから後にM15と付記するようになる)もE1だった。
実銃のM16軍用モデルはグレーがかったパーカライジング調の色。小林さんはこれを再現するため、2液処理で行っていた亜鉛合金の黒染めを、第1液のみで止めるやり方を採用する。2液ともやらないと黒にはならず、すでに内部パーツなどはまっ黒でなくても良いからということで、使われてきた処理らしい。それを今回は外装パーツの表面処理に使おうというのだった。






これで発売されると、またファンの無い物ねだりが起きた。スポーターやポリス・モデルのような黒いモデルも欲しいという声が寄せられるようになり、通常仕上げも発売されることになった。やがてそれがメインになり、一時期はパーカ調仕上げはミリタリーフィニッシュとして、特別注文になったりしたらしい。この辺はボクには良くわからないので伺ってみたところ、小林さんも記憶があやふやだという。
のちに、リアルな刻印を再現したカスタムも発売された。いまでこそリアルな刻印は当たり前だが、当時は輸出の関係もありモデルガン・オリジナルの刻印が多かった。マガジンも実銃に装着できないよう、微妙にサイズが変えられていた。
ただ、ネルソン社長から資料提供を受けていたこともあって、一部実物パーツが装着可能なものもあった。RMIを通してM16A1実物ハンドガード(U.S.A.コルト社製、¥3,000)、実物スリング(¥2,000)、実物バイポッド、実物スコープ(U. S. A. コルト社製)などが輸入、販売された。
また、次第に詳しくなっていったファンからの要望により、バードケージタイプ フラッシュサプレッサーも作られた。最初はスチール材を機械加工したものが、のちに亜鉛合金のものが発売された。
MGCのM16は、キャップ火薬用モデルガンのようにいきなり初心者が楽しめるモデルではないが、デトネーター方式ブローバックに慣れた人には、非常に快調で面白いモデルだった。
バレルをレシーバーと一体化することでsmG規格をクリアし、第二次モデルガン法規制後も生き残ったが、10年後の1983年にプラスチック製のCPブローバック方式M16A1が発売され、その人気はほぼ完全に奪われてしまった。しかし1970年代のテッポウ好き少年たちにM16のことを教えてくれ、モデルガンにクローズドボルト・セレクティブファイアブローバックの新しい扉を開いた、画期的なモデルガンだった。








●Vintage Model-gunとは
本コーナーにおけるヴィンテージ・モデルガンは、原則的に発売されてから20年以上経過した物を対象としています。つまり2012年現在の時点で1992年以前に発売されたモデルガンということになります。
Text & Photos by くろがね ゆう
協力:タニオ・コバ/小林太三
http://www.taniokoba.co.jp
撮影協力:矢野俊和
Gun Professionals 2012年12月号に掲載
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