2025/05/14
Kriss Vector CRB
Text & Photos by Yasunari Akita
Gun Professionals 2014年12月号に掲載
世界中のガンメーカーが同じようなモデルを製品化して画一化が進む中、革命的なリコイルリダクションメカ、クリス スーパーVシステムが登場してから、2014年の時点で7年が経過した。個性的過ぎるからなのか、あるいは驚くほどの効果は得られないからなのか、公的機関が本格的にクリス ベクターを採用したという話は聞こえてこない。しかし、これをセミオート化した民間仕様CRBはそれなりに売れている。
2025年5月 GP Web Editor 補足:Kriss Vectorが2015年にアップデートされてGen2となり、2024年にはGen3へと更なる改良が施されました。これはそのアップデート前の初期モデルをベースとしたセミオート版シビリアン仕様 CRB(Carbine)のレポートです。
テクニカルチャレンジ
21世紀に至る現在、ファイアーアームズのメカニズムもいくつかのパターンの中で繰り返され、主流となるデザインは一部に絞られてしまった。20世紀は例え失敗しようとも面白い発想が沢山あった…(とんでもないものも結構あったが…)。しかし現実は甘くはなかった。
合理的で信頼性の高い設計だけが生存競争に打ち勝ち、現実的な視点から使えないもの、悪くはないけど利点があまりハッキリしないものは去り行く運命にある。それが世の流れであり、どうにもならない。しかし…、どこもかしこも基本的には同じというのは、ちょっと寂しい!? な~んて拒絶反応も出てしまう(笑)。
2005年の秋、そんな状況の中で一風変わったデザインのSMG(サブマシンガン)の試作品が姿を現した。その新型銃は革命的なリコイルリダクション オペレーティングメカニズムを搭載し、これまでの常識を覆すモデルであると伝えられた。
そして開発が進み、2007年頃から軍・警察用の画期的なSMGとして各専門誌でフィーチャーされ始めた。SHOT SHOWでの取材陣の飛びつき方も良く、“ボルトが斜め下に下がるすごいアイデアの銃が発表された”と話題性は抜群であった。
ブローバック方式で作動するボルトを斜め下に後退させるKSVS(Kriss Super V System:クリス スーパーVシステムの略だが、最近は単純にクリス システムと呼んでいる)という、何とも派手なネーミングの新型メカを引っさげて、このクリス ベクターは登場した。
メーカーの解説を聞いていると、かなり画期的なモデル、究極のCQBウェポンだと誰もが思った。それに加えて銃身線(ボアアクシス)がストックと一直線どころか、トリガー中央あたりまで下げられており、マズルジャンプを抑制するための、徹底した設計になっていた。
しかし、このとき1986年に公開されたシルヴェスター・スタローン主演の映画『コブラ』でコブレッティ刑事が使うフィンランド製のヤティマティック(Jatimatic)のことをちらっと思い出した(この銃は撃ったことはないけど)。オープンボルトのブローバック作動による口径9mm×19のサブマシンガンで、メカ的にはKSVSとは全然違うが、通常とは異なる方向にボルトを後退させることによってリコイルエネルギーをコントロールしようとする部分では共通していた。
ヤティマティックでは約7°傾斜させたレールによって斜め上にボルトを後退させ、マズルの跳ね上がりを抑制しようとしていた。70年代後半から開発が進められて80年代半ばに少数が製造されたが、成功作にはならなかった。それでも映画の影響のおかげで、その存在は強く印象に残った。
発想は面白かっただけに、また誰かがチャレンジしてくれないかな…と思っていたので、クリス ベクターにはとても興味が湧いた。
体感する反動を60%まで下げ、バレルの上昇を95%も抑えるという、まさに“長年の理想だった反動のない銃…に限りなく近い存在”と、各専門誌でもベタ褒め状態であった。
そんなクリス ベクターを今回はじっくり実射テストする機会に恵まれたのだ。
クリス スーパーVシステム
マズルライズを抑制するため、リコイルエネルギーを真っ直ぐ後ろにではなく下方向(ダウンワード)に方向転換させるという発想自体は完全に新しいものではなく、ボルトの後退エネルギーを下方に向ける発想そのものはワルサー・ぺリンが設計したピラニアピストルで既に採用されていた。
1975年1月2日に特許は受理されたが、1969年から6年間に23挺が製造されたに過ぎず、このメカが世間の脚光を浴びることはなかった。
ブローバック方式でマウザーのようにマガジンをグリップ前方に挿入するピラニアピストルでは後退するボルトの後部に結合されたリンクが、傾斜したグリップ内部に収まっているスプリングを圧縮しながらボルトを後退させるというものであった。
他にもロシアの競技用ピストルにも似たモデルが存在していたが、こうした特殊メカのモデルが普及することはなかった。
時は流れて、この基本原理に再度注目したのがクリスUSA社だった。この会社、元々はスイスのガンマインダストリーズ社の子会社であったTDI(Transformational Defence Industries)が前身で、このメカニズムの特許が出願されたのが2003年頃。開発には5年以上の年月を費やしている。CQB用のSMGとして軍からの期待も熱く、USアーミーのARDECピカティニーアーセナルと共同開発を行なって完成へと辿り着いた。
当初は9mmや.40S&Wの製品などもアナウンスされたが、現在のところ.45ACPのみの一本立てだ。但し、メーカー自身はKSVSはどの口径にも適応させられると語っている。
マガジンは専用設計ではなく、その辺のお店で沢山売っているG21(グロック21)用を流用したのはナイスアイデア。当初サープラス品がゴロゴロしている過去のSMG用を採用するという案も候補にあがったはずだが、ストレートなものが多い。グロックのマガジンは通常のピストル用と比べても角度がきつくKSVSのデザインに適合させやすかったはずだ。
同時にG21は警官から人気が高く、ハンドガンとマガジンが共用させることは警察用として売り込む際にも大きなセールスポイントにもつながる。今年はG41というファミリーも増えてハードヒッター45のグロック人気がますます勢い付いている(2014年当時)ので、それもクリスUSAには追い風になりそうだ。